研究課題/領域番号 |
26293065
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
片岡 徹 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40144472)
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研究分担者 |
島 扶美 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60335445)
枝松 裕紀 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70335438)
松本 篤幸 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (00753906)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | シグナル伝達 / 蛋白質 / 癌 / 脂質 / 高分子構造・物性 |
研究実績の概要 |
1、H-RasのC末端領域配列(アミノ酸番号172-189)のN末にGly(Sortase認識配列)を付加し、Cys186のファルネシル基付加、C末VLS配列の除去及びCys186のカルボキシメチル化を導入した種々の合成ペプチドを、大腸菌で産生したH-RasのN末端166アミノ酸(アミノ酸番号1-166)のC末端側にLPKTG(Sortase認識配列)を付加したポリペプチドとSortaseによる蛋白質ライゲーション反応にて結合させることにより、NMR実験が実施可能な量の翻訳後脂質修飾を受けた全長H-Rasと各種修飾中間体を産生して精製した。 2、15N同位体で標識されたH-Ras(1-166-LPKTG)と同位体非標識の各種C末端合成ペプチドとをSortaseで結合させ精製した。それらのGppNHp結合型を用い、[15N, 1H]-HSQCを利用して翻訳後修飾依存性のシグナルの変化を検出したところ、C末端ペプチドの付加依存性にH-Ras(1-166)の領域の構造変化が検出されたが、ファルネシル基付加を含む翻訳後修飾との関連性は認められなかった。[15N, 1H]-HSQCを利用して、同位体標識H-Ras(1-166)と各種C末端合成ペプチドとの相互作用を解析したところ、合成ペプチドはそれ自身でH-Ras(1-166)のC末端領域近辺と結合することが示唆された。一方、アクチベーター領域との相互作用は見られなかった。 3、上記の15N標識全長Ras及び各種修飾中間体とc-Raf-1・CRD(アミノ酸番号132-206)との相互作用を[15N, 1H]-HSQCを用いて解析したが、H-Ras(1-166)の領域との相互作用は検出されなかった。同じ蛋白質を用いた試験管内結合実験では、ファルネシル基付加依存性の結合が見られるので、15N非標識のC末端領域が結合に関与していると推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Sortaseによるin vitro蛋白質ライゲーション反応を用いて、従来の方法では高次構造解析に必要な量の調製が不可能であった翻訳後修飾を受けた全長H-Ras蛋白質及び修飾中間体を、NMR実験が実施可能な量産生して精製することができた。当初の研究計画どおり、15N同位体で標識されたH-Ras(1-166-LPKTG)と同位体非標識の各種C末端合成ペプチドとをSortaseで結合させ精製し、[15N, 1H]-HSQCを利用して翻訳後修飾依存性のRasの構造変化の解析、ならびに、同位体標識H-Ras(1-166)と各種C末端合成ペプチドとの相互作用の解析を実施することができた。当初想定していた、RasのC末端領域がファルネシル化依存性にそのアクチベータ領域と相互作用するという仮説を支持する実験結果は得られなかったが、研究はおおむね順調に進展している。さらに、本研究のもう一つの柱であるc-Raf-1・CRDと翻訳後修飾を受けたH-Rasの結合認識機構の解析も、in vitro蛋白質ライゲーション反応で作製した翻訳後修飾を受けた全長H-Ras蛋白質および修飾中間体を用いた試験管内結合実験ならびに[15N, 1H]-HSQCを用いたNMRによる相互作用解析実験により著実に進展している。これらのことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である平成28年度には、in vitro蛋白質ライゲーション反応で作製した翻訳後修飾を受けた全長H-Ras蛋白質および修飾中間体を利用し、NMRを用いて翻訳後修飾のRas-Rafの第二の結合に対する影響とState 1-State 2間の高次構造遷移に対する影響を解析する。また、NMR実験を優先していた全長H-Ras蛋白質および修飾中間体を、H-Ras単体及びc-Raf-1・RBD+CRD(アミノ酸番号50-206)との複合体のX線結晶構造解析に回し、結晶化条件を決定してSPring-8を用いたX線結晶回折実験によりRas-Rafの第二の結合の認識機構を解析する。また、 NMRを用いた、翻訳後修飾による H-Rasの高次構造変化及びc-Raf-1・CRD及びc-Raf-1・RBD+CRDと翻訳後修飾を受けたH-Rasの結合認識機構の解析を引き続き実施する。さらに、c-Raf-1・CRD又はRBD+CRDの側を安定同位体標識し、同様にC末端ペプチド及びC末端ペプチドを付加した非同位体標識全長H-RasとのNMRを用いた結合実験を行うことで、c-Raf-1上の相互作用に関与する領域を同定する。NMR解析のデータとX線結晶解析のデータを総合することにより、構造変化と結合認識機構に係る最終的結論を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画によれば平成27年度中に使用する予定であった学会誌投稿料と論文別冊購入費及び旅費の大部分を使用しなかったため、次年度使用額が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度において、複数の論文を学会誌に投稿し論文別冊を購入するために使用する。それ以外の平成28年度の研究計画及び使用計画には変更がない。
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