研究課題/領域番号 |
26293070
|
研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
今居 譲 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30321730)
|
研究分担者 |
井下 強 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20601206)
柴 佳保里 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30468582)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | ミトコンドリア / パーキンソン病 / ショウジョウバエ / iPS細胞 / リン酸化 / ユビキチン / 酸化ストレス / ドーパミン神経 |
研究実績の概要 |
連携研究者 服部信孝教授らが2015年に新規パーキンソン病原因遺伝子として同定したCHCHD2の機能解析をショウジョウバエモデルおよび培養細胞を用いて進めた。CHCHD2はミトコンドリアの外膜と内膜の間の空間に存在するタンパク質で、アミノ酸変異により優性遺伝形式のパーキンソン病を発症する。CHCHD2ノックアウトハエは、ミトコンドリアのクリステの変性を示すが、ヒトCHCHD2の再導入でこれが改善する。一方、疾患変異型CHCHD2の再導入では改善しないことから、CHCHD2変異によるパーキンソン病は、機能獲得変異ではなく、ハプロ不全(タンパク質量の不足)で起こることが示唆された。さらに、CHCHD2変異によるミトコンドリア変性を改善する遺伝子として4E-BPを同定した。 若年性パーキンソン病の原因遺伝子産物PINK1は、別の若年性パーキンソン病の原因遺伝子産物Parkinとユビキチンをリン酸化し、Parkinを活性化する。培養細胞を用いて、2014年までにこの発見を報告した。活性化したPINK1により産生されるリン酸化ユビキチンが、個体レベル、臨床レベルでも検出可能かどうかを、ショウジョウバエ、ヒト病理切片、iPS細胞由来ドーパミン神経を用いて解析した。その結果、リン酸化ユビキチンは、ハエ、ヒトともに個体レベルで検出可能であった。特に、孤発性のパーキンソン病患者の黒質ドーパミン神経で陽性であったことは、臨床的にも重要な知見である。さらに、PINK1, Parkinに変異のあるiPS細胞由来ドーパミン神経では、リン酸化ユビキチンシグナルが減弱していることが明らかとなった。さらに、iPS細胞から分化した神経培養において、ドーパミン神経においてリン酸化ユビキチンシグナルが特に強く認めたことから、この現象のドーパミン神経特異的な背景が推察された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はCHCHD2の機能解析、神経変性を抑制する遺伝子、結合タンパク質の機能解析を精力的に進め、学会発表、論文投稿・受理まで達成できた。リン酸化ユビキチンの臨床での検証を行った成果も、学会発表ののち、年度末に論文投稿を完了し、概ね当初の目的を遂行できている。
|
今後の研究の推進方策 |
モデル動物と培養細胞を用いた解析から、CHCHD2変異によるパーキンソン病は、呼吸鎖複合体の不完全性による酸化ストレスとATP産生低下が原因であると考えられる。これを補完しミトコンドリアの健全性を保つことを目的としたショウジョウバエモデルでの治療的試みを進める予定である。さらに、CHCHD2患者の病理像から得られた新たな知見から、ミトコンドリア変性が孤発性パーキンソン病の病態機序に予想以上に関与している可能性が考えられた。この病態機序解明にむけてモデル動物の作製と解析を進める予定である。 リン酸化ユビキチンに関しては、一部の孤発性パーキンソン病病理切片でも検出された。今後、症例数を増やして、より一般的なパーキンソン病の病理診断の一指標となり得るか、さらにバイオマーカーとして利用可能かどうかを検討する。また、ドーパミン神経でリン酸化ユビキチンの蓄積が顕著に見られる分子メカニズムを明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
リン酸化ユビキチンの患者細胞での検証のため、パーキンソン病患者iPS細胞からのドーパミン神経分化誘導とストレス処理を行った。しかし、ドーパミン神経の成熟に想定以上に時間がかかったため、ドーパミン神経を用いた実験のいくつかが予定内に終了しなかった。そのため、次年度に分化誘導培地などにかかる費用を繰り越すことにした。
|
次年度使用額の使用計画 |
ドーパミン神経では非ドーパミン神経に較べ、リン酸化ユビキチンシグナルが顕著にみられる。このドーパミン神経特異的な背景となる実態解明のために、引き続きiPS細胞由来の分化神経を用いた研究を遂行していく予定である。
|