研究課題/領域番号 |
26293071
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
深見 希代子 東京薬科大学, 生命科学部, 教授 (40181242)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リン脂質 / 増殖・分化 / がん / 表皮 |
研究実績の概要 |
リン脂質代謝酵素PLCd1は増殖・分化制御に重要な役割を果たす事が判明してきている。PLCd1欠損による増殖・分化制御の乱れが、乾癬やアトピー性皮膚炎などの皮膚疾患やがんを誘導すると考えられる。 そこで第一に、表皮バリア機能におけるPLCd1の重要性を、PLCd1欠損(KO)マウスやケラチノサイトの3Dヒト人工皮膚モデル系等を用いて検討した。いずれの系においても外からの浸透性が増大し、バリア機能が低下している事が判明した。またその分子機構として、フィラグリンのプロセシング異常や、タイトジャンクション異常等が判明しつつある。 第二に、PLCd1の欠損によってもたらされる乾癬様皮膚炎と肥満の関連性を検討した。遺伝的肥満マウス(db/dbマウス)にイミキモドを塗布し乾癬様炎症を誘導した所、通常マウスに比べて耳の腫脹やインターロイキン17(IL-17), IL-22の増加など著しい乾癬の憎悪が観察された。また乾癬に関与するReg3γの発現が定常時にも誘導されている事、肥満時に血清で増加するパルミチン酸でヒト初代角化細胞を処理すると、Reg3γの発現が増加する事がわかった。これらの結果は、肥満が乾癬の重症化を引き起こす事を示している(K. Kanemaru, et al, Exp.Derm. in press)。 第三に、PLCd1が、がん細胞悪性化を阻害するE-カドヘリンの発現を誘導し、大腸がんにおいてがん抑制因子として機能することを報告した。またPLCd1は大腸がん臨床検体においても著しく発現が低下している事、がん遺伝子K-Rasの活性型変異でPLCd1の発現が抑制される事を明らかにした。これらの成果は、増殖・分化に関与するPLCd1が表皮のみならず、種々な上皮系細胞においても重要な役割を担っている事を示している(Satow et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 111, 13505-13510 (2014))。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
増殖・分化制御におけるリン脂質代謝の重要性に焦点を当てて解析を行った。表皮においては、リン脂質代謝酵素PLCd1の欠損が分化異常を引き起し、その結果バリア機能不全をもたらす事が判明してきており、解析は順調に推移している。PLCd1の欠損によってもたらされる乾癬様皮膚炎が肥満によって増悪することを論文発表できた事も成果として挙げられる(Exp.Derm. in press)。また表皮のみならず、大腸上皮においても、PLCd1が増殖・分化制御に関与し、特に大腸がんの抑制因子として機能する事が判明した点は予想外のことであるが、大変面白い結果と成った(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (2014))。以上を総合し、想像以上の成果が上がったと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
表皮においては、リン脂質代謝酵素PLCd1の欠損が分化異常を引き起し、その結果バリア機能不全をもたらす事に関する解析が順調に進行してきている。3D ヒト人工皮膚モデル系は、in vivo を反映するシステムとして非常に有用であり、PLCd1cKO マウスでの表現型と比較しながら解析を進める。またバリア異常をもたらすメカニズムについても判明しつつあるので、詳細な解析を行なう。またアトピー性皮膚炎はバリア異常を主な症状としているので、アトピー性皮膚炎の診断や治療に繋がる分子機構をさらに検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費、人件費等の支出を予定していたが、イノシトールリン脂質に関する国際学会にスケジュールの関係から参加できなかったので、一部次年度使用となった。
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次年度使用額の使用計画 |
旅費等は日韓若手シンポジウム(ソウルで7月に開催)や生化学会(神戸で12月に開催)に参加予定のため、次年度は使用する予定である。
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