研究課題
私たちはミトコンドリア外膜に局在するユビキチンリガーゼMITOLを同定し、MITOLがDrp1をポリユビキチン化して、プロテアソームを介した分解を促進することによってミトコンドリアの形態を調節していることをこれまでに報告した。今回、MITOL欠損神経細胞を用いてミトコンドリアの機能障害の有無を詳細に解析した結果、MITOL欠損がミトコンドリアからの活性酸素種(ROS)の産生量が増大することを見出した。この原因の一つとしてDrp1の蓄積によるミトコンドリアの分裂の亢進が密接に関与していることが明らかとなった。しかしながらDrp1の蓄積に依存しないROS産生の増大の関与も示唆された。その原因として呼吸鎖複合体のSuper complex形成の異常が示唆された。その分子メカニズムを解析した結果、MITOL欠損細胞においてカルジオリピンの生合成に異常が起こり、カルジオリピンの成熟が抑制されていることが判明した。呼吸鎖複合体のSuper complex形成にはカルジオリピンの成熟が必須であることが報告されているので、Super complex形成がROS産生増大の主要な原因である可能性が考えられた。今後、なぜカルジオリピンの生合成に異常が起こるのかについて明らかにする必要がある。さらにROS産生を誘発するアンチマイシンC刺激によりROS産生のさらなる増大が観察され、MITOL欠損によるミトコンドリア機能障害の機構の一端が解明された。また、神経特異的MITOL欠損マウスを作製し、MITOLによるS-ニトロシル化LC1の分解について解析した結果、ミトコンドリア画分においてS-ニトロシル化LC1の蓄積を観察した。今後、S-ニトロシル化LC1の蓄積と病態との関連性を解明する。
2: おおむね順調に進展している
MITOL欠損によるDrp1の蓄積のみならず呼吸鎖複合体のSuper complex形成の異常を発見したことを極めて興味深い現象であり、今後、MITOL欠損による活性酸素種(ROS)の産生量の増大機構が詳細に解明されることが期待できる。
今後、神経特異的MITOL欠損マウスの表現系を詳細に解析して、S-ニトロシル化LC1の蓄積と病態との関連性を解明する。また、MITOLによるミトコンドリアと小胞体の接着制御機構の解明を行い、MITOL欠損マウスを用いてミトコンドリア機能不全と様々な疾患との関連性を明らかにする。
情報収集を予定していた学会に参加できなくなったため、旅費を使用しなかったことにより次年度使用額が発生した。
研究打ち合わせや成果発表・情報収集のため学会参加(旅費)および、マウスなどの実験動物や抗体等(消耗品)に使用する予定である。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (1件)
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