研究課題
MITOLによる変性タンパク質の分解機構について解析を行った。筋萎縮性側索硬化症の原因遺伝子産物の一つであるSOD1は変異することにより、変性タンパク質の凝集塊を形成し、ミトコンドリアに蓄積することが発症と密接に関与していることが報告されている。私たちは以前、MITOLが変異したSOD1を特異的に認識して結合し、ユビキチン-プロテアソーム経路を介して分解を促進することを見いだしたが、MITOLがどのようにして変性タンパク質を特異的に認識しているかについては不明であった。今回、基質認識部位であるMITOLのC末端に位置するDisorder domainが変性タンパク質を直接認識している可能性を示唆した。MITOLによる酸化ストレス防御機構については、MITOLがS-ニトロシル化されたMAP1B-LC1をユビキチン化して分解を促進していることを報告したが、生理的意義は不明であった。今回、神経特異的MITOL欠損マウスを樹立して、生体内のS-ニトロシル化MAP1B-LC1を解析した結果、神経特異的MITOL欠損マウスの脳において、S-ニトロシル化MAP1B-LC1がミトコンドリアに蓄積していることを明らかにした。さらに、蓄積したS-ニトロシル化MAP1B-LC1と神経発生過程における神経細胞移動の遅延や神経細胞死との関連性が示唆された。種々の臓器特異的MITOL欠損マウスの作製については神経以外にも、心臓、皮膚特異的なMITOL欠損マウスを樹立した結果、老化に関連した表現系が得られたので、病態との関連性について解析中である。
2: おおむね順調に進展している
MITOLがC末端に位置するDisorder domainを介して、神経変性疾患の原因遺伝子産物を特異的に認識することを明らかにすることができた。MITOLの活性化誘導技術が神経変性疾患の治療につながることを示唆しており意義深いと考えられる。さらに神経特異的MITOL欠損マウス脳においてもMITOLがS-ニトロシル化MAP1B-LC1を制御していることを明らかにしたことより、MITOLが生体内において一酸化窒素による酸化ストレスに対する防御機構に関与していることを示した。さらに、種々のMITOL欠損マウスの樹立と解析は順調に進んでいる。
MITOLによる変性タンパク質の分解機構については、筋萎縮性側索硬化症の原因遺伝子産物の一つであるmutant SOD1の分解のみならず、アルツはオマー病、ポリグルタミン病、パーキンソン病などの原因遺伝子産物も基質にするかどうか明らかにしたい。MITOLによる酸化ストレス防御機構については、MITOL自身がS-ニトロシル化修飾を受けて失活する可能性が示唆されており、今後、ユビキチンリガーゼの活性を生化学的に詳細に検討したい。種々の臓器特異的MITOL欠損マウスの作製については、老化に着目し、ミトコンドリアからの活性酸素種と老化との関連を明らかにして、皮膚および心臓の病態との関連性を検討したい。
予定していた研究支援者の雇用がされなかったため人件費の未使用分が生じた。
研究支援者雇用費用として使用する。
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J. Neurosci.
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