研究課題
アルツハイマー病の脳では、神経細胞同士の接続を担うシナプスがまず障害され、最終的には細胞体本体が細胞死を起こすことでネットワークに障害が起こり、高次機能が低下する。これまで、アルツハイマー病の原因とされたアミロイドβが本当にこの神経細胞死の原因であるのか、原因であるとしたら神経細胞死のメカニズムはどうなっているのかは全く不明であった。申請者は、初めて、患者脳から神経細胞死活性を持つアミロイドβの約30量体「アミロスフェロイド」の単離に成功し、昨年度、アミロスフェロイド1個が、成熟神経細胞の機能と生存に必須であるシナプス膜表面のポンプ、Na,K-ATPaseポンプのα3サブユニットに1:1で結合し、その機能を阻害することで神経細胞死を引き起こすことを各種手法で証明した(PNAS2015)。上記以外に、アミロスフェロイドの立体構造を溶液NMR(PNAS2015)並びに固体NMR(JACS2015)で決定し、さらに、アミロイドの特定のアイソフォームだけで出来る新たな線維の立体構造をNMRで決定し(NSMB2015)、これらを論文として報告するに至った。また、ファージディスプレイを用いてアミロスフェロイド結合ペプチドを探索し、そのペプチドがアミロスフェロイドに結合し、Na,K-ATPaseポンプに結合することを妨げることで、神経細胞死を阻止出来ることを示した。上記のとおり予定した研究計画を順調に進めることが出来た。
1: 当初の計画以上に進展している
設定した課題の内、1については、アミロスフェロイド自体のの構造論文の1報目を順調に報告出来た上に、全く予想外のこととして、アミロイドの42残基のものだけで構築が可能なトリプルβシートと名付けた新たな線維の構造を発見し、それについて、Nat Str Mol Biolに報告することが出来た。これは、患者脳から得たアミロイドのシーズを使って、試験管内で構造解析を可能にする技術構築したことに基づいており、今後、アミロイドの代謝についてヒトでのプロファイリングが可能になるかもしれない重要な手法の構築に繋がった。課題2については、予定どおり順調にペプチドを同定することに成功した。この過程で全く新たなASPD調製方法を発見。これが次の課題である、なぜ脳内でASPDが形成されるのかという課題への手がかりとなることがわかった。さらに得られたペプチドから低分子化への作業を製薬企業を開始することになった。課題3については、アミロスフェロイド発見の時に見出したタウリン酸化酵素の活性化を確認為、改めて、タウとアミロイドをつなげる結果となった。上記を総合すると、今年は当初の計画以上に新たな進展があり、次の展開に繋がった。
アミロスフェロイド及び線維の構造については、今後、特に患者脳に実際に存在するものとの構造比較を中心に行う予定である。アミロスフェロイドについては、大腸菌により高純度のアミロイドを調製することに成功したため、固体NMRだけではなく溶液NMRによる構造解析を実施する予定である。 その過程で、NMRの結果をPCAという解析手法で容易に評価出来ることがわかり、それを論文として纏めようとしている。アミロスフェロイドとターゲットの相互作用部位については、ペプチドを用いてさらに絞り込みを行っていく。そのためのアッセイ系を構築する。また、ターゲット自体の分布をin situ などを用いて解析を行っていく。下流については、ASPDからタウまでのシグナルを全て明らかにすることを目指す。さらに、アミロスフェロイドがどうやって細胞内で作られ、それが細胞外にどうやって運ばれているかについても引き続き研究を行う予定である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 6件) 図書 (1件)
Analytical Biochemistry
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