研究課題/領域番号 |
26293080
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
仁木 利郎 自治医科大学, 医学部, 教授 (90198424)
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研究分担者 |
佐久間 裕司 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (10364514)
吉本 多一郎 自治医科大学, 医学部, 講師 (20634166)
松原 大祐 自治医科大学, 医学部, 准教授 (80415554)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 肺癌 / 上皮間葉転換 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
これまでの研究により、上皮形質の低下した低分化な非小細胞肺癌においてクロマチンリモデリング因子BRM, BRG-1の発現低下が高頻度にみられることを明らかにしている。BRM, BRG-1の発現低下と細胞分化、上皮形質の喪失(上皮間葉転化; EMT)の間の因果関係を明らかにするためレンチウイルスベクターを用いたノックダウン実験を行った。 肺腺癌細胞H1975は多角形の上皮形態のシート状増殖を示すやや低分化な細胞であるが、BRMのノックダウンにより細胞の形態が紡錘形へと変化することが観察された。BRM-KD細胞はNOD/SCIDマウスの皮下に移植したところ、ヒトの肉腫様癌に似た紡錘形細胞からなる癌が形成されることを確認した。BRMのノックダウンによりEMT形質が誘導されたことは、タンパク、mRNAレベルにおいてE-cadherinの低下、Vimentinの発現上昇を認めることによりさらに確認された。 BRMのノックダウンによるEMT誘導に相関してglobalなヒストン修飾の変化が起きているかをwhole cell lysateを用いたWestren blotで検討してみたが、有意な変化はみられなかった。 EMTの制御転写因子として、zeb1, snail, slugが知られている。これらの発現を検討した結果、EMT形質の誘導と最も相関するのはZeb1であることが判明した。BRMのノックダウンが何らかの機構よるzeb1誘導を介して起きていることが示唆された。
研究分担者の佐久間は、EGFR阻害剤の耐性化とEMTについての研究を行っている。これまでの研究により、T790M, MET増幅のような二次変異のほかに、オートファジーが関与することを示してきたが、さらに今回はPIN1 (prolyl isomerase)がEGFR耐性に関わっていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
BRMのノックダウン実験によりEMT形質を誘導できたことは研究計画全体の中で重要なmilestoneと考えている。さらにEMTの誘導と相関してzeb1の誘導を起きていることを見出しており、BRMによるEMTの制御機構を解明するうえで重要な手がかりとなっている。
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今後の研究の推進方策 |
BRMのノックダウンによるEMTにおいてglobalにはヒストン修飾に変化はみられなかったが、今年度は部位特異的(Zeb1, E-cadherinのpromoterにおける)ヒストン修飾、メチル化について検討を行う。 BRG1/BRMは転写制御のほかにもDNA修復にも関与することが指摘されている。そのためBRG1/BRMの異常をもつ癌細胞では化学療法剤への感受性が増すことが示唆されている。またBRG1/BRMを含むSWI/SNF複合体はH3K27のtri-methyl化を触媒するPRC2 (Polycomb repressive complex)と拮抗的に作用するため、PRC2の構成因子であるEZH2の阻害剤あるいはHDAC阻害剤との併用についても最近注目されるようになっている。BRM-KD細胞が化学療法剤あるいは新規epigenetic阻害剤に対し感受性を示すようになるかについても、unbiasedなスクリーニングを通して検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
部位特異的なpromoter解析をCHIP法にて行う予定であったが、条件検討に予想以上の時間を要したため。
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次年度使用額の使用計画 |
shRNAvectorによりBRMをノックダウンした細胞およびそのコントロール細胞はすでに調整できている。これら細胞の E-cadherinのpromoterのヒストン修飾についてCHIP法と定量的PCR法により解析を行う予定である。またBRMをノックダウンした細胞が化学療法剤あるいは新規epigenetic阻害剤に対し感受性を示すようになるかについても、unbiasedなスクリーニングを通して検討する。
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