研究課題/領域番号 |
26293080
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
仁木 利郎 自治医科大学, 医学部, 教授 (90198424)
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研究分担者 |
佐久間 裕司 札幌医科大学, 医学部, 准教授 (10364514)
吉本 多一郎 自治医科大学, 医学部, 講師 (20634166)
松原 大祐 自治医科大学, 医学部, 准教授 (80415554)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 肺腺癌 / 分化形質 / メチル化 |
研究実績の概要 |
これまでの研究により、上皮形質の低下した低分化な肺腺癌(肺腺癌全体の10%程度)においてクロマチンリモデリング因子BRM, BRG1の発現低下が高頻度にみられることを明らかにしてきた。肺本来の上皮形質をよく保持した腺癌は、肺胞置換性ないし乳頭状の組織形態を示すことが多いが、これに対し肺本来の分化形質の発現が低下した腺癌では粘液産生性の腺癌や充実増殖を示す低分化腺癌の形態を示すことが多く、また既知のドライバー変異が見つかる頻度が低い。そこで粘液産生性あるいは充実増殖を示す腺癌43症例を形態学的に選出し、次世代シーケンサによる全エキソーム解析を行った。その結果、以下の知見を見出した。 (1)肺のMaster 遺伝子であるTTF-1 (thyroid specific transcription factor-1)の変異が7症例(16.3%) で見出された。TTF-1の変異は、TP53, KRASに次いで解析症例で有意に頻度が高いことも統計的な解析により確認した。TTF-1の変異体は転写活性能を喪失した失活変異であることもluciferase assayにより確認した。 (2)Bisulfate sequencingによりTTF-1遺伝子領域のメチル化を解析したところ、TTF-1の発現低下した症例では、TTF-1遺伝子のintron 1からその3’領域が広範囲にメチル化されていた。TTF-1陰性の肺癌細胞に脱メチル化剤を添加するとTTF-1遺伝子の発現が一部回復した。
TTF-1陰性の肺腺癌は肺腺癌全体の20-30%を占め、これまで見出されたEFGR, ALKなどの主要なドライバー変異が見つかる頻度は低い。TTF-1の失活変異あるいはDNAのメチル化による発現低下は、肺本来の分化形質の発現が低下した腺癌の発癌過程において重要な意義をもつものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究過程で、偶然ではあるが、TTF-1遺伝子の失活変異という興味ある発見をしたため、その変異解析、メチル化解析を優先的に行う必要が生じ、当初予定していた、E-cadherin, ZEB1のプロモーター解析、ヒストン修飾の解析が遅れることとなった。 現在、TTF-1についての研究は論文にまとめてすでに発表しており、現在、当初予定した解析に戻って研究を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
クロマチンリモデリング因子BRMのノックダウンにより、肺腺癌細胞にEMTが誘導される現象を現在までに見出している。この実験系において、E-cadherin,vimentin, ZEB1, mir-200などEMTのマーカーあるいはEMT制御因子のプロモーター領域のメチル化、ヒストン修飾をBisulfate sequence法、CHIP-sequence法にて解析を進める予定である。また細胞株だけでなく、肺腺癌組織を用いた解析を行い、BRMの発現低下した症例において、細胞株と同様の結果が得られるか確認したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究過程で、偶然ではあるが、TTF-1遺伝子の失活変異という興味ある発見をしたため、その変異解析、メチル化解析を優先的に行う必要が生じ、当初予定していた、E-cadherin, ZEB1のプロモーター解析、ヒストン修飾の解析が遅れることとなった。 現在、TTF-1についての研究は論文にまとめてすでに発表しており、現在、当初予定した解析に戻って研究を行っている。具体的には、これまでの研究により、クロマチンリモデリング因子BRMをノックダウンすると肺腺癌細胞にEMTが誘導される現象を見出している。この実験系において、E-cadherin,vimentin, ZEB1, mir-200などEMTのマーカーあるいはEMT制御因子のプロモーター領域のメチル化、ヒストン修飾をBisulfate sequence法、CHIP-sequence法にて解析を進める予定である。また細胞株だけでなく、肺腺癌組織を用いた解析を行い、BRMの発現低下した症例において、細胞株と同様の結果が得られるか確認したい。
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