研究実績の概要 |
肺腺癌の70-80%は、肺マスター遺伝子 TTF-1 (thyroid specific transcription factor-1)陽性で肺本来の上皮形質をよく保持したTRU (terminal respiratory unit)-typeである。これに対しTTF-1陰性の肺腺癌は、消化器上皮のマーカーを発現する症例、あるいは上皮間葉転換 (EMT, epithelial mesenchymal transition)の形質を示す症例など、分化形質の異常が認められる。TTF-1陰性の肺腺癌ではこれまで見出されたEGFR, ALKなど主要なドライバー変異がみられないことから、肺腺癌におけるエピジェネティクを介した分化異常について以下の解析を行った。 1)ヒストン修飾に関連した分子の遺伝子発現と分化形質との関連を解析し、EMT形質を示す肺腺癌ではPRMT5 (protein arginine N-methyltransferase 5)の発現が亢進していることを見出した。 2)EMT形質を示す肺腺癌では、クロマチンレモデリング因子 BRG1, BRMの発現消失、遺伝子変異がみられる。BRMのノックダウンにより、細胞形態の紡錘形化、E-cadherinの低下などEMTの形質が誘導されることを明らかにした。 3)non-TRU typeの形態を示す肺腺癌を次世代シーケンサーにより解析し、この症例群ではTTF-1の失活変異が高頻度にみられることを発見した。TTF-1陰性の症例では、TTF-1遺伝子領域がメチル化されており、TTF-1陰性の肺癌細胞に脱メチル化剤を添加するとTTF-1遺伝子の発現が一部回復した。 以上、non-TRU typeの肺腺癌ではヒストン修飾の異常、クロマチンレモデリング因子BRG1, BRMやTTF-1遺伝子の失活により分化異常が起きている可能性が考えられた。
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