研究課題
肝細胞癌は臨床病理学的に多様性に富む。本研究では、発癌や悪性度に関連する分子やシグナル伝達に焦点を当て、それらの機能的役割を検討することにより、病理・病態への関与を明らかにする。さらに、免疫組織染色プロファイリングと臨床病理学的所見を統合し、肝細胞癌の実践的で有用なサブクラス分類の確立を目的とする。2003年から2010年の間の肝切除検体のうち肝細胞癌と診断された162結節(142症例)を本研究の肝細胞癌パネルとし、その連続組織切片(ホルマリン固定パラフィン包埋切片)を作製した。この切片に対し免疫組織染色を行ったところ、KRT19が5.5%、SALL4が8.6%、EpCAMが11.1%、CD133が0.6%、β-cateninが11.1%、glutamine synthetase (GS)が7.9%、p53が12.3%で陽性を示した。今回選定した抗体が全て陰性であったものは53.7%であった。これらの染色結果と臨床病理情報を対比したところ、KRT19、SALL4、EpCAMのいずれかが陽性となるグループ(17.3%)は、血清AFP値が高く、高頻度に門脈侵襲または肝内転移が見られ、早期再発率が高い傾向が認められた。β-cateninとGSのいずれかが陽性となるグループ(22.8%)は、悪性度の指標となる臨床病理学的因子との有意な相関が認められず、前述のグループと比較して悪性度は低いと考えられた。幹細胞・胆管上皮マーカーであるKRT19、SALL4、EpCAMのいずれかが陽性となる28例の内8例でp53が陽性であったが、WNTシグナル経路活性化と関連するβ-cateninまたはGSが陽性となるのは1例のみであった。このことから、幹細胞・胆管上皮マーカー陽性症例群とWNTシグナル経路活性化症例群とはほとんど重なりがなく、独立したサブクラスとして認識されることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
肝細胞癌の発癌・悪性化に関与すると考えられる分子を対象とした免疫組織染色により、プロファイリングが可能であることが示された。現段階では分類不可能な症例も存在するが、初年度にふたつの肝細胞癌サブクラスを分類できた成果は大きい。
WNTシグナルおよびTGF-β シグナル経路の活性化を反映するマーカー分子候補を、前年度に引き続き免疫組織染色により絞り込み、その機能解析を行うことによって、肝細胞癌におけるそれぞれのシグナル伝達の機能的な意義や臨床病理像との対応を検討する。幹細胞・胆管上皮マーカーを発現する肝細胞癌は悪性度が高かったことから、悪性化と関連する分子を導入または発現抑制させた細胞株を樹立し、機能解析を行う。最終的には、肝細胞癌の分類に適したマーカー分子を選定し、その免疫組織染色プロファイルと臨床病理情報との比較解析により、新たな分子病理学的サブクラス分類を確立する。
すべて 2014
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Journal of Hepatology
巻: 61 ページ: 1080-1087
10.1016/j.jhep.2014.06.008