研究課題
肝細胞癌は臨床病理学的に多様性に富む。本研究では、発癌や悪性度に関連する分子やシグナル伝達に焦点を当て、それらの機能的役割を検討することにより、病理・病態への関与を明らかにする。さらに、免疫組織染色プロファイリングと臨床病理学的所見を統合し、肝細胞癌の実践的で有用なサブクラス分類の確立を目的とする。TGF-β処理した肝細胞癌細胞株において、上皮間葉転換(EMT)様の形態変化とともに、インテグリンβ4 (ITGB4)の発現が亢進することが明らかとなった。また、肝細胞癌手術検体の免疫組織染色により、KRT19/SALL4/EpCAMのいずれかが陽性となるグループ(平成26年報告)で、ITGB4が陽性となる症例が有意に多いことが示された。このグループに含まれる症例は早期再発率が高いことから、EMTが再発に関与している可能性が示唆される。肝細胞癌は、異型結節から発生し、多段階的に悪性化が進行していくと考えられているが、早期肝細胞癌は、病理学的に、異型結節との区別が難しいとされる。そこで、臨床病理学的所見に加え、CAP2/HSP70/BMI-1などを対象とした免疫組織染色を行い、早期肝細胞癌の新規分類法を提唱した。高グレードの早期肝細胞癌(HGeHCC)は、低グレードの早期肝細胞癌(LGeHCC)と比べ、異型が強く、腫瘍サイズが大きく、CAP2の発現増加が認められるなど、悪性度が増し、進行肝細胞癌へ移行していると示唆される。この新規分類法では、HGeHCCとLGeHCCとに細分類することにより、治療方針の決定に利用価値があると考えられる。また、肝細胞癌と同じ染色評価基準で、メラノーマにおけるCAP2免疫組織染色の結果を解析すると、CAP2高発現と術後生存率低下との間に有意な相関が見られた。CAP2発現増加は、癌の悪性度の指標となることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
インテグリンβ4の発現が、TGF-β シグナルによって促進されること、また昨年度報告した悪性度に関連する肝細胞癌分類マーカーと相関していることが示され、悪性度に関連する分子と肝細胞癌におけるシグナル伝達経路との関連付けが進展した。また、既知の肝細胞癌マーカー分子を用いた免疫組織染色により、早期肝細胞癌の細分類法を提唱した。
WNTシグナルおよびTGF-β シグナル経路の活性化を反映するマーカー分子の機能解析を行うことによって、肝細胞癌におけるそれぞれのシグナル伝達の機能的な意義や臨床病理像との対応を検討する。MAPKシグナル経路の仲介因子に関して、肝細胞癌における発現を確認し、今までに確立した肝細胞癌サブクラスとの関連を検討する。最終的には、これらを統合し、肝細胞癌免疫組織染色プロファイルと臨床病理情報との比較解析により、新たな分子病理学的サブクラス分類を確立する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件、 オープンアクセス 1件)
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