研究課題
肝細胞癌は臨床病理学的に多様性に富む。本研究では、発癌や悪性度に関連する分子やシグナル伝達に焦点を当て、それらの機能的役割を検討することにより、病理・病態への関与を明らかにする。さらに、免疫組織染色プロファイリングと臨床病理学的所見を統合し、肝細胞癌の実践的で有用なサブクラス分類の確立を目的とする。肝細胞癌の薬剤治療に用いられるソラフェニブはマルチキナーゼ阻害剤であり、その標的であるRAFはMAPKシグナル経路の活性化を担っている。ERKはMAPKシグナル経路の一員であり、リン酸化を受けて活性化すると、核内に移行し、転写因子として機能する。肝細胞癌細胞株をHGF存在下で培養すると、ERKのリン酸化促進および細胞増殖促進が示された。ソラフェニブに対する感受性は細胞株によって異なるが、ソラフェニブによるERKリン酸化抑制と増殖抑制との関連が示された。肝細胞癌手術検体におけるERKの活性化状態を検討するため、癌細胞でのERKの核局在を免疫組織染色により検出した。癌細胞の核内で強陽性を示す症例をERK活性化症例とし、陰性および弱陽性を示す症例と比較したところ、ERK活性化症例は、AFP高値、低分化度、肝内転移、Ki-67高値など悪性度と関連する因子との有意な相関を示した。さらに、幹細胞・胆管上皮マーカーであるCK19やSALL4の発現とも有意な相関が見られた。このようなマーカー分子を発現する肝細胞癌ではHGFの受容体であるMETの活性化が報告されており、前述の結果と合わせると、HGF-MET-RAF-ERKを介するシグナル伝達経路の活性化によって細胞増殖が促進されていると考えられる。以上のことから、ERKが活性化された悪性度の高い肝細胞癌サブクラスが存在し、そのような症例はソラフェニブ治療が功奏する可能性が示唆された。
28年度が最終年度であるため、記入しない。
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