研究課題/領域番号 |
26293084
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
樋口 京一 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (20173156)
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研究分担者 |
澤下 仁子 信州大学, 学術研究院医学系, 助教 (40359732)
森 政之 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (60273190)
亀谷 富由樹 公益財団法人東京都医学総合研究所, 認知症・高次脳機能研究分野 認知症プロジェクト, 研究員 (70186013)
矢崎 正英 信州大学, 学術研究院医学系, 准教授 (70372513)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 実験病理学 / 疾患モデル動物 / 蛋白質 / アミロイドーシス / 伝播 / ApoA-II / 治療 / 運動 |
研究実績の概要 |
アミロイドーシスとは蛋白質が病的構造を取り、アミロイド線維として沈着し、生体に障害を与える疾患群である。研究代表者はアミロイドーシスのモデル動物を用いて、①プリオン病と類似した『アミロイド線維の伝播』が、アミロイドーシス発症の重要な要因である。②アミロイドーシス発症はアミロイド蛋白質の変異などの遺伝的要因と加齢などの環境的要因が引き起こす蛋白質恒常性維持機構の破綻の結果であることを示してきた。本研究ではAApoAIIを中心とした各種アミロイドーシスの既存および新規作成モデルマウスとin vitro線維形成システムを駆使して、1. 個体間及び臓器間の伝播の担体と経路を明らかにする。2. 蛋白質恒常性の維持と破綻がアミロイドーシスの発症・治癒に及ぼす効果を解析する。本年度の主な実績を以下に示す。 (1)AApoAIIアミロイド線維沈着に伴う蛋白質恒常性維持機構の活性化とその破綻として、小胞体ストレス反応の活性化と長期化によるアポトーシス誘発を明らかにして論文発表を行った。(Luo et al Lab Invest 2015) (2)アミロイドーシスを発症しないF型ApoA-IIを発見して、そのアミロイド線維形成抑制メカニズムをin vitro系で詳細に解析し、アミロイド線維末端の活性部位へのキャッピング作用によることを明らかにした。さらに動物モデルを用いて、アミロイドーシス発症抑制ペプチドの有効性を示し、論文発表を行った。(Sawashita et al Proc Natl Acad Sci USA 2015) (3)アミロイド線維による伝播現象の解析を行い、不溶性、チオフラビンT結合性のアミロイド線維が伝播の主要な構造である可能性を示した。 (4)アミロイドーシス発症の予防法として運動や摂取カロリーの制限が有効であることを明らかにし、学会での発表を行い、論文投稿の準備をしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者が独自に開発してきたマウスAApoAIIやAAアミロイドーシスなどのモデル動物及び in vitro解析システムを駆使して、『伝播』現象を基盤としたアミロイドーシス発症のメカニズムを解明し、予防・治療法を開発するために以下のような研究を計画した。1. 伝播を担う分子種の解析:伝播性の強いアミロイド分子種の構造、出現時期、存在部位を解明する。2. 個体・臓器・細胞間伝播経路の解析:アミロイドが体内へ侵入し、全身へと沈着が拡大する「経路」と「伝播の担体や細胞」を明らかにする。3. アミロイド伝播調節因子の解析:in vitro線維形成解析システムとモデル動物システムを活用してアミロイド線維形成、伝播、治癒に関与する物質を解析する。4. ヒトアミロイドーシスへの展開:神経変性疾患や老人性アミロイドーシスなどの伝播現象に関する解析を行う。5. 予防・治療法の解析:運動や抗老化処方、線維伸張抑制ペプチドがアミロイド沈着を抑制する機構を解析する。 1及び2 に関しては伝播を担う分子種の詳細な解析を行い、論文を投稿中である。また血液中に存在する伝播の担体を解析し、アミロイドの進行に伴い白血球や赤血球の分画の伝播力の増強が観察されることを明らかにしている。3 のアミロイド伝播については、伝播を抑制するペプチドを発見して、その抑制メカニズムを明らかにし、アミロイドーシスの治療効果を動物モデルを用いて検討した。その成果は一流紙である Proc Natl Acad Sci USA 掲載された)また、アミロイドーシスの発症に関して小胞体ストレスの関与を明らかした。また、5 の予防法に関しては運動やダイエットが効果的であることを明らかにして、メカニズムの解明を行っており、順調に推移している。しかし4のヒトアミロイドーシスの研究には遅れが認められる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は特に以下のような実験を実施する。 1. (1) 個体間の伝播、(2) 臓器間の伝播について AApoAII アミロイドーシスを用いて解析する。(特に白血球と赤血球に存在する伝播物質に関して申請者と信州大学の澤下仁子研究分担者が主として行う)。2. アミロイド伝播調節因子の解析について、開発した強力な線維形成阻害ペプチドの伸長反応抑制メカニズムの解明と他のアミロイド線維への応用を進めるとともに、非常に弱い伝播力しかないin vitro形成線維の伝播力を増加させる条件や分子を探索する。(申請者と澤下仁子が主として行う。)3. 新たなアミロイドーシスのモデルシステムとして重篤なアミロイドーシスを発症するヒトβ2M(D76M)のトランスジェニックマウスの作成を行う。4. 食品からのヒトAAアミロイドーシス伝播の可能性を調べるために、ヒトSAA1Tgマウスを作成する。(3と4については申請者と信州大学の森政之研究分担者が主として行う。)5.アミロイドーシスの予防、治療法として、運動処方の効果とそのメカニズムを解析する。6. 食餌(カロリー)制限は唯一確実な老化抑制処方とされている。食餌制限による老化とアミロイドーシスの抑制のメカニズムを明らかにする。(5と6については申請者、澤下仁子、森政之、東京都医学総合研究所の亀谷富由樹研究分担者が協力して行う。) 7. 各種ヒトアミロイドーシスの切り出した組織部位を用いてアミロイド沈着蛋白質を同定する。(信州大学矢崎研究分担者)が行う。遅れているヒトでのアミロイドーシスの応用に関しては矢崎、研究代表者及び澤下が主に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実績報告に示したように、本年度に計画した研究は概ね順調に進捗した。 ただし、本年度の実施を計画していた、試験管内で作成した線維の伝播性を増加させる研究やトランスジェニックマウスによるモデルマウスの作成を次年度に繰越す等の、遅れも生じたた。その結果、マウス飼育の費用や、ペプチド合成の費用等が当初計画より減少した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は平成27年度請求額と合わせて、計画的に使用し、さらなる発展を期す。 特に昨年度の研究成果を国際雑誌へ掲載するための費用や、昨年度に遅れの見られた研究(試験管での線維形成と伝播性の増加等)や現在作成中の新たなトランスジェニックマウスを用いた解析をより発展させる。飼育マウスの匹数が増加すると思われるので、その費用として使用する。
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