研究課題
我々はこれまでに、CD169マクロファージ消去マウスでは、腎虚血再灌流傷害が劇症化することを見出した。CD169マクロファージ非存在下では腎虚血再灌流により激烈な炎症が誘導されることから、CD169マクロファージは腎虚血再灌流に伴う炎症を負に制御し、過度の組織傷害を防ぐ働きがあると想定される。本研究では腎虚血再灌流傷害におけるCD169マクロファージの炎症抑制機構の解明を目指す。本年度は、以下の研究を行った。CD169マクロファージ消失マウスにおける虚血再灌流傷害の病態を、野生型マウスと比較検討した。CD169マクロファージ消失マウスでは、著明な好中球浸潤が見られ、Gr-1抗体投与により好中球を消失させると、腎虚血再灌流傷害の劇症化が著明に改善することから、好中球浸潤が劇症化に重要な役割を担っていることが明らかとなった。この過度の好中球浸潤の原因を明らかにするために、好中球の遊走および浸潤に関与する因子の発現量を検討した。CD169マクロファージ消失マウスでは、いくつかのケモカインの上昇が見られたが、いずれも腎虚血再灌流傷害後の変化であり、CD169マクロファージ消失の直接的な効果であるかどうか断定することはできなかった。一方で、接着因子であるICAM-1の発現は、腎虚血再灌流傷害前のCD169マクロファージ消失マウスで著明に上昇していた。ICAM-1中和抗体投与により腎虚血再灌流傷害の劇症化が著明に改善したことから、これが本マウスにおける過度の好中球浸潤の原因である可能性が考えられた。さらにCD169マクロファージ消失マウスから分取した単核球は、野生型に比し、血管内皮細胞のICAM-1発現を有意に増加させることも分かった。これらの知見から、CD169マクロファージは血管内皮細胞のICAM-1発現を調節することにより、過度の炎症の惹起を防止している可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
生体の各臓器には、局在や機能の異なる複数種類のマクロファージサブセットが存在するが、各サブセットの組織傷害における役割の詳細は明らかになっていない。本研究では、組織傷害における各マクロファージサブセットの役割を解明することを目指している。初年度は、上述のようにCD169マクロファージ消去マウスにおける、腎虚血再灌流傷害劇症化の病態解析を進めた。その結果、CD169マクロファージが血管内皮細胞のICAM-1発現を調節することにより、過度の好中球浸潤を防止している可能性を明らかにすることができた。この点では、研究は予定通りに進んでいると考える。次にこのCD169マクロファージによる炎症調節の分子基盤の解明に取り組む予定であるが、すでに、同マクロファージの遺伝子発現の網羅的な解析を始めている。CD169-Cre xROSA-YFPマウスより調製した細胞をセルソーターにより分離採取し、正常時および虚血再灌流後経時的にCD169陽性および陰性マクロファージの遺伝子発現をDNA microarrayにより解析中である。一方、過度の好中球浸潤がどのようにして、虚血再灌流における過剰な傷害を誘導するかについても検討を加えている。一般に虚血再灌流傷害では、非アポトーシス細胞死による組織傷害が起こると考えられているが、実際にどのような細胞死が起こっているのか、またこれに好中球がどのように関わっているのか、についても検討を始めている。これらの解析は、詳細な虚血再灌流傷害の分子機構解明につながるものであり、次年度以降も解析を進めたいと考えている。
次年度も引き続き、上述の解析を進めるとともに、以下の課題にも取り組む。1. CD169陽性マクロファージの分化・機能に関与する因子の同定CD169陽性マクロファージはその特徴的な局在や機能から、各共通の転写因子によってその分化・機能が規定されている可能性が示唆される。そこで、各組織のCD169陽性マクロファージに共通して発現する転写因子を探索し、その因子の働きを明らかにする。既に我々は候補となる転写因子を複数同定しており、その役割の解析を始めている。次年度は、それらの因子の欠損マウス等を用いて、CD169陽性マクロファージの分化・機能への関与を明らかにする。欠損マウスが胎生致死である場合や、マクロファージの解析が不能な表現系を示す場合には、マクロファージ特異的欠損マウス(すでにCD169-Creマウスは作成済み)や骨髄キメラマウスを作製して、解析を行う予定である。2. CD169単球の腎傷害抑制への関与および分子機構これまで、Ly6c陽性単球が炎症を惹起する細胞であるのに対し、Ly6c陰性は組織マクロファージの前駆細胞として、組織の恒常性維持に寄与すると考えられてきた。しかし、最近になって、Ly6c陰性単球は、組織マクロファージの前駆細胞として働くだけでなく、組織の傷害を迅速に感知し炎症を制御する役割を担う可能性が報告された。これまでの解析により、Ly6c陰性の一部にCD169陽性細胞が存在することから、これらの細胞が腎虚血再灌流傷害における炎症および傷害の抑制に関与している可能性がある。そこで、血液中のLy6c陽性単球を選択的に除去できるマウスにおける腎虚血再灌流傷害の病態解析を行う。既に我々はLy6c陽性単球のみに発現する細胞表面分子の遺伝子座にDTR cDNAを挿入したノックインマウスの作製に成功しており、このマウスを用いて解析を行っていく予定である。
本研究では、CD169-DTRマウスやCD169-Cre/ROSA-YFPマウス等の複数の遺伝子改変マウスを使用する。当初、これらのマウスの交配や維持を行い、必要なマウス数を確保するためには、大学外の飼育施設に委託する必要があると考えており、そのための費用を計上していた。しかし、本年度は当初の予想に反して、本研究に必要なマウスの飼育の多くを本学動物施設内で行うことが可能であったため、外部委託費として計上していた予算を使用する必要がなかったため、繰り越しをして次年度以降に使用することとした。
次年度以降は、CD169-DTRマウスやCD169-Cre/ROSA-YFPマウスに加えて、Ly6c陽性単球を選択的に消去できる遺伝子改変マウスを使用して解析を進める予定であるため、大学外の飼育施設にマウスを委託する必要があると考えている。繰り越した予算は、その飼育委託費に当てる予定である。また次年度以降の研究計画に記載してある通り、当初の研究計画を発展させて、CD169陽性マクロファージに共通して発現する転写因子の解析も進めたいと考えており、そのためのマウス購入費や試薬購入費にも充当する予定である。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (1件)
J. Am. Soc. Nephrol.
巻: 26(4) ページ: 896-906
doi: 10.1681/ASN.2014020195.
Immunity.
巻: 41(3) ページ: 402-13
doi: 10.1016/j.immuni.2014.08.005.
J Am Soc Nephrol.
巻: 25(8) ページ: 1680-1697
doi: 10.1681/ASN.2013060675.
Proc Natl Acad Sci USA.
巻: 111(11) ページ: 4215-4220
doi: 10.1073/pnas.1320924111.