研究課題/領域番号 |
26293089
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研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
田中 正人 東京薬科大学, 生命科学部, 教授 (00294059)
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研究分担者 |
大村谷 昌樹 熊本大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (60398229)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 炎症 / マクロファージ / 虚血再灌流傷害 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでにCD169マクロファージが、リンパ節や脾臓等の末梢リンパ組織に局在するだけでなく、腎臓の髄質の血管周囲にも局在し、腎虚血再灌流傷害の病理に深く関わっていることを明らかにした。さらに、CD169-Cre x ROSA-YFPマウスの解析により、CD169陽性マクロファージは腸管の粘膜固有層にも局在し、腸炎の進行に寄与していることを明らかにした。 各組織のCD169陽性マクロファージは、局在や機能に共通性がみられることから、共通の転写因子によってその分化・機能が規定されている可能性が考えられた。そこで、我々は、各組織のCD169陽性マクロファージに共通して発現する転写因子をDNAマイクロアレイ法により探索し、転写因子を複数同定した。 さらに、その中の転写因子一つが、CD169陽性マクロファージの機能を制御している可能性を見いだした。この転写因子の欠損マウスは胎生致死であったため、胎仔肝臓を用いて、骨髄キメラマウスを作製して解析を行った。その結果、この転写因子欠損骨髄キメラマウスでは、CD169陽性マクロファージの分化には異常が見られなかったが、このマクロファージ特異的サイトカインの産生に異常が見られることが分かった。この転写因子を欠損した骨髄細胞から、CD169陽性マクロファージを誘導し、in vitroで種々の刺激を行ったところ、in vivoと同様に、CD169陽性マクロファージ特異的サイトカイン産生の低下が見られる一方で、逆に発現の亢進が見られる遺伝子が複数存在することを見いだした。 現在、CD169陽性マクロファージにおける当該転写因子の機能と役割について検討を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生体の各組織には、局在や機能の異なる複数の組織常在マクロファージサブセットが存在する。これらのマクロファージサブセットは、固有の機能や局在を示すことから、特異的に発現する転写因子によって性質が決定されると考えられるが、その詳細はほとんど明らかになっていない。
本研究対象であるCD169マクロファージは、組織のセンチネル細胞として組織境界部に局在する細胞であり、共通の転写因子により、その機能が制御されていることが想定されていた。本年度、我々はその転写因子の候補を同定し、その一つが、CD169マクロファージの機能に関与している可能性を見いだした。この発見は、同マクロファージの疾患病理への関わりを明らかにする上で、極めて重要なものであり、研究は順調に進展していると言える。この転写因子の欠損マウスの解析には、胎仔肝臓による骨髄キメラマウスを用いるが、このマウスのCD169マクロファージが移植した細胞により置き換わることも確認しており、in vivoにおける当該転写因子の機能を解析することが可能となっている。さらに、我々はこの骨髄キメラマウスの骨髄細胞を二次移植に用いることが可能であることも確認しつつあり、十分な匹数のマウスを確保できる目処もたっている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も引き続き、CD169陽性マクロファージの機能制御因子と、腎虚血再灌流傷害における役割の解析を進める。 1.CD169陽性マクロファージの機能に関与する転写因子の解析 上述のように我々は、各組織のCD169陽性マクロファージに共通して発現する転写因子を探索し、候補となる転写因子を複数同定した。さらに、その中の転写因子一つが、CD169陽性マクロファージの機能を制御している可能性を見いだした。次年度は、この転写因子の機能解析をさらに進める。特に、転写因子欠損マクロファージにおいて発現の亢進が見られる遺伝子、すなわち生理的には、この転写因子によって発現が抑制されている遺伝子に注目して、解析を進めたいと考えている。これらの遺伝子のいくつかは、別の転写因子によってその発現が制御されているとの報告があり、2つの転写因子の関係に関しても解析を進める予定である。さらにこれらの転写因子が、腎虚血再灌流傷害等の組織傷害においてどのような役割を担っているかについても解析を進める。
2.単球の腎傷害抑制への関与および分子機構 我々の腎虚血再灌流モデルの解析では、その傷害に、組織に常在するマクロファージだけでなく、Ly6c陽性単球の関与も想定されているが、その詳細は未だ明らかにできていない。このLy6c陽性単球の組織傷害における役割を明らかにする目的で、Ly6c陽性単球のみを選択的に消去できる遺伝子改変マウスによる解析を行う。我々は既にジフテリア毒素の投与により、Ly6c陰性単球にほとんど影響を与えずに、Ly6c陽性単球を特異的に消去できる遺伝子改変マウスの作製に成功しており、このマウスにおける腎虚血再灌流傷害の病態解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、概ね予定通り助成金を使用したが、各組織からCD169マクロファージの調製法を改良して、効率よく必要細胞数を得る方法を開発する等して、マウスの使用数をできるだけ少なくするように努力した結果、予算の約5%を節約することができたため、繰り越しをして次年度以降に使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
上述のように、CD169陽性マクロファージに共通して発現する転写因子の解析結果から、新たな転写因子の解析が必要になったため、その欠損マウスの維持費や試薬購入費に充当する予定である。
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