研究課題
本研究は、アミノ酸トランスポーターSLC15A4 がリソソームにおける炎症シグナル惹起と維持を媒介する機構を明らかにし、この分子が自己抗体産生を媒介して自己免疫モデル疾患の病態形成を司るメカニズムを理解することを目的としている。SLC15A4欠損B細胞およびプラスマ細胞様樹状細胞で、TLR7/9に依存したI型IFN産生および炎症性サイトカインの産生低下が認められることから、SLC15A4がTLR7/9のシグナルに重要な役割を果たすこと、SLC15A4を欠損するとヒスチジンおよびその代謝産物であるヒスタミンがリソソームに蓄積すること、さらに、TLR7/9アゴニストによって引き起こされるリソソーム小胞内の酸性化が阻害されることを示した。ヒスチジンは高い緩衝能を持つアミノ酸であることから、リソソーム内に蓄積することによって小胞内pHに影響を及ぼしたと考えられた。またSLC15A4欠損細胞では、リソソームをプラットフォームとするシグナル分子mTORC1の活性化も抑制されており、SLC15A4が司るリソソームのアミノ酸環境とpHの制御が、炎症時におけるmTORC1の活性化に極めて重要な役割を果たすことを明らかにした。(2)については、リソソームに局在するvATPaseはアミノ酸センサーとしてmTORC1の機能制御に関わること、またvATPaseの活性はリソソーム内pHに依存することから、SLC15A4欠損におけるpH制御の異常がvATPase活性に影響を与える可能性を検討した。リソソームを含む画分を比重遠心法によって濃縮し、そこに含まれるvATPaseの活性を検討した結果、SLC15A4欠損がvATPaseの機能に影響を与えている可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本年度の計画であった(1) SLC15A4 を介するリソソーム内のヒスチジン恒常性とプロトン環境制御がTLR7/9 およびmTOR 機能に重要である、(2) SLC15A4 による細胞質へのヒスチジン輸送がアミノ酸センサーを介してmTOR シグナルを制御する、という二つの作業仮説の検証において、順調に成果が得られ、論文化(Kobayashi, et al. Immunity 2014)に至った。さらに、本研究成果によってSLC15A4は自己免疫疾患のよい治療標的となり得ることが示されたことから、自己免疫疾患の新規治療薬の開発に向けて、低分子阻害剤のスクリーニングの着手に至ったことは重要な進捗と考えられる。
SLC15A4欠損マウスでマスト細胞の形態異常が認められることから、マスト細胞の機能解析を進めている。マスト細胞のヒスタミン顆粒に焦点を当て、その生合成とアレルギー応答においてSLC15A4が媒介するリソソームのアミノ酸とpHの制御の重要性を明らかにし、メカニズムの解明を進める。
質量分析にかかる費用が、共同研究によって遂行が可能になったため、費用の節約につながった。またルーチンで使用する消耗品の割引価格適用により、経費節減につながった。
次年度計画されているノックアウトマウスの作出および繁殖・維持にかかる費用に一部充当するほか、世の中の流れから消耗品(特に試薬)を平成27年度より値上げするメーカーが増加していることによる物品費の支出増加分に充当する。
すべて 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 3件) 備考 (2件)
Mechanisms of Development
巻: 135 ページ: 58-67
doi: 10.1016/j.mod.2014.12.001.
Immunity
巻: 41 ページ: 375-388
10.1016/j.immuni.2014.08.011.
http://www.ncgm.go.jp/
http://square.umin.ac.jp/Sori_Lab/index.htm