ボルバキア(Wolbachia pipiens)は、グラム陰性の偏性細胞内共生細菌であり、地球上の半数以上の昆虫種に感染している。雌の生殖細胞に感染し子へと伝わるボルバキアは、宿主の性、生殖を操作することにより集団内での自己の感染を拡大する。加えて、ボルバキア感染宿主細胞ではプラス鎖RNAウイルスの増殖が抑制されることが知られ、複数のボルバキア感染ヤブカ系統において感染症ウイルスが増殖できずに、媒介能が著しく低下することが明らかとなっている。西アフリカで主要なデングウイルス媒介者であるネッタイシマカにおいて、ウイルス増殖抑制をになう主要な細胞の同定を試みるとともに、ボルバキア感染細胞のヤブカ体内でのダイナミクスを明らかにした。自然界ではボルバキアに感染していないネッタイシマカに、キイロショウジョウバエに感染するボルバキアwMelを移植した系統では、吸血によって取り込まれたデングウイルス、ジカウイルスの増殖が抑制される。この蚊系統体内でのボルバキアの分布をボルバキアタンパク質FtsZに対する抗体を用いて観察した。その結果、吸血後の雌では、ウイルスの初期感染組織と考えられる中腸ではボルバキア感染は顕著ではなかった。一方、脂肪体では多くの細胞がボルバキアに感染し、マルピーギ管の主要な細胞(Principal cells)や生殖細胞はすべてが多数のボルバキアに感染していた。また、ボルバキアが持つある特定のタンパク質が、ジカウイルスの増殖を顕著に抑制することを発見した。 以上の成果は、殺虫剤耐性が問題となっているベクター節足動物の制御において、細菌・真菌等の微生物群に加え、ボルバキア等の細胞内共生細菌を用いてベクターの性質を変えるパラトランスジェネシスの重要性を示している。
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