研究課題
寄生性原生生物の病原機構の解明は、分泌され細胞・組織を破壊するプロテアーゼなどの酵素や宿主細胞への接着・侵入に関与する表面受容体などの“病原因子”自体の同定と機能解析に偏り、これらの病原因子の細胞内輸送・分泌機構に関しては解明が遅れている。本研究では腸管寄生性原生動物である赤痢アメーバのもつ、ヒト組織への侵入・破壊に中心的な役割を果たすシステインプロテアーゼの細胞内輸送・分泌の分子機構を生化学的・細胞生物学的・遺伝学的手法をもって解明することを目的としている。本年度はリソソームから細胞膜への輸送に関与する低分子量GTP分解酵素 Rab11Bとタンパク質相互作用により結合する下流の実行タンパク質の解析を行った。Rab11Bの結合タンパク質としてベータアダプチン(bA)、ガンマアダプチン(gA)、Sec6の3種類のタンパク質を得た。Sec6は,輸送小胞の繋留を担うエキソシスト複合体のサブユニットであった。HAエピトープ標識したこれらのタンパク質を発現する形質転換体を作成し、間接蛍光抗体法によりこの3種類のタンパク質がRab11Bと一部共局在することを確認した。また、HA抗体を用いた免疫沈降法を行ったが、Rab11Bは検出されなかった。一方、Sec6は輸送小胞の細胞膜繋留に機能するエクソシスト複合体の構成因子であり、他種生物ではエクソシスト複合体がSec15, Sec8, Exo84等の8種類のタンパク質を含んでいることが知られているため、これらの存在を赤痢アメーバゲノム中で検索したところ、一部のタンパク質を除きほぼ保存しており、赤痢アメーバにおいてもエクソシスト複合体が存在・機能することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
Rab11B結合タンパク質の免疫沈降によるRab11Bの同定確認以外は順調に推移している。また、Rab11B結合タンパク質の組換えタンパク質の作製はタンパク質のサイズが大きく困難なため、HA標識付加によるタンパク質の遺書発現を今後中心に行う方向に転換したため、無用の遅延は割けることができた。
Sec6は輸送小胞の細胞膜繋留に機能するエクソシスト複合体の構成因子でありため、Rab11BとSec6の結合を介して、Rab11Bの結合する小胞の包む積み荷を細胞外へ分泌する過程を調節している可能性がある。そこでゲノム中に確認された他の構成因子のSec6並びにRab11Bとの相互作用を、生化学的手法並びに細胞化学的方法により確認する。更に、Rab11B結合タンパク質の過剰発現、遺伝子発現抑制による表現型の変化を、特にシステインプロテアーゼのリソソームや細胞外への輸送能、哺乳動物細胞の貪食能を中心に解明する。更にRab11B結合タンパク質過剰発現体及び発現抑制体を用いて、ブタおよびネズミの盲腸を用いて、ex vivoによる組織侵入や破壊の変化を定量し、これらRab11B結合タンパク質、並びにRab11Bとの結合の生理機能を解明する。
Rab11B結合タンパク質の免疫沈降後のタンパク質同定の質量分析を当該年度に実行しなかったため
上記の実験項目を免疫沈降とイムノブロット法による確認と免疫蛍光抗体法による観察で代替えを行うこととしたが、質量分析法による再確認が必要となる可能性がある
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 2件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 8件、 謝辞記載あり 8件)
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