研究課題
本研究では、ヘリコバクターピロリ (Helicobacter pylori, Hp) の胃粘膜持続炎症メカニズムの包括的理解と、その成果のワクチン開発への応用を目指して、本菌と感染宿主の時間的・空間的相互作用に焦点を絞り、次の研究を企図した。(A) 胃での応答制御機構の解析。(B) 腸管パイエル板での応答制御機構解析。(C) ワクチン解析。H26年度は、Hp動物モデル感染株の胃内螺旋状菌および腸内球状菌の表面タンパク質プロファイルの網羅的解析を行う。表面タンパク質は多くが膜タンパク質であり疎水性に富むため、通常の二次元電気泳動解析には適さない。菌体表面にビオチン化学修飾を施し、菌体可溶化後アビジンビーズを用いて回収した膜タンパク質のトリプシン消化ペプチドを調製し、iTRAQリポータータグによる質量分析計 (LC/MS/MS) 網羅的解析を検討したが、螺旋状および球状菌体によって菌体表面の生化学的性状が異なるために、ビオチン化学修飾効率が不均一となり、本法は適さないことが判明した。そこで、サルコシン界面活性剤の可溶化効率の差異をりようした外膜タンパク質調製方法を確立し、調製した外膜タンパク質を LC/MS/MSによる網羅的ショットガン解析に供して、得られたペプチド由来のタンパク質を同定するとともに、emPAI値によるサンプル間の存在比を算出することで、各表面タンパク質の螺旋状菌と球状菌の網羅的暫定的定量比較を行った。さらに、胃内螺旋状菌体と腸内球状体でのトランスクリプトーム解析も行い、胃および腸内で特異的に発現するHp因子を複数同定した。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は、予定通り、各表面タンパク質の螺旋状菌と球状菌の網羅的暫定的定量比較を行うことができた。さらに、胃内螺旋状菌体と腸内球状体でのトランスクリプトーム解析も行い、胃および腸内で特異的に発現するHp因子を複数同定することができた。
昨年度に行った胃内螺旋状菌および腸内球状菌の、ショットガン解析およびトランスクリプトーム解析結果を精査して、特異的因子群の解析優先順位を決定する。次に、これらの因子の発現を改変した変異Hp株を作出する。作出した菌株の、生育や形態、各種生化学的性状を解析するとともに、スナネズミもしくはマウスの腸管結紮ループアッセイに供して、パイエル板への侵入効率の差異を解析する。さらに、胃上皮への付着および炎症惹起を精査し、付着と炎症を規程する因子を同定するとともに、動物感染実験での宿主応答誘導における作用を解析する。また、同定された菌体因子に結合する宿主因子をpull-down法などによる同定を試みる。
菌体のトランスクリプトーム解析が予想よりも順調に進んだため、サンプル調製や解析に係る支出が見込みよりも減額したため。
更なる詳細な解析のために動物実験を拡張する予定である。
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