研究課題/領域番号 |
26293096
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
堀口 安彦 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (00183939)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 百日咳菌 / 気管支敗血症菌 / 咳発作 |
研究実績の概要 |
百日咳で見られる特徴的な咳嗽発作の原因となる病原因子の探索のため、咳嗽発作を再現する実験動物モデルを作製し百日咳類縁菌の気管支敗血症菌の変異株(A 株)が動物モデルに咳嗽発作を起こさないことを発見した。本研究では、この成果を足がかりとして百日咳菌による咳嗽発作の病原因子の同定と発症メカニズムの解明を目指している。前年度は A 株で特異的な変異が見出された遺伝子 cx が何らかの形で下流の遺伝子制御を司る機能を有していることを示すデータが得られた。そこで本年度はその下流遺伝子で咳嗽発作に関わると思われる遺伝子の同定と機能解析を目指した。
CXの下流で転写制御を受け、咳嗽発作の原因となる CXX の同定:野生株と Δcx 株の遺伝子発現パターンの異同をマイクロアレイ法で網羅的に解析した。任意に設定した基準に従って、野生型株で発現するが Δcx 株で発現しないと考えられた遺伝子を40遺伝子程度リストアップした。このうち、塩基配列から推定される機能などに基づいて任意に24遺伝子を選び出し、それぞれの遺伝子の欠損変異株の咳嗽惹起能を調べた。
その結果、3種の遺伝子の欠損株において感染動物の咳嗽発作症状の減弱が認められた。そのうち1種の遺伝子欠損株は咳嗽惹起能が他の2種に比べて強く残り、別の1種は気道への定着能が低下していたため、残り1種の遺伝子(CXXa)についてさらに機能解析を行った。その結果、CXXa 欠損株の感染実験では咳嗽発作が著しく低下するものの、この株の菌破砕液の経鼻投与実験では野生型と同程度の咳嗽発作を示すことがわかった。さらに、CX 欠損株の菌破砕液も同様に咳嗽発作を起こした。 このことは、CX や CXXa による下流遺伝子の転写制御が in vitro と in vivo で異なることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに CX が直接的あるいは間接的に下流の遺伝子の転写を制御して咳嗽発作に関わることを明らかにし、当初の予定よりも早く下流遺伝子の解析を行い結果を得ることができた。そのため本年度は予定よりも早い段階で、CXX 遺伝子の探索に研究を進めることができた。しかし本年度の研究過程で、CXX 遺伝子候補を同定することができたものの、菌破砕液の経鼻投与で CX 遺伝子欠損株、CXX 遺伝子欠損株の両方で咳嗽発作を起こしたことから、CX ならびに CXX(これもおそらく転写レベルで真の咳嗽原因因子の発現を制御していると考えられる)遺伝子による下流の転写制御様式は、生菌を感染させる in vivo の条件と菌破砕液を調整するための in vitro での条件の間で異なることが考えられた。無論、CX 欠損株と CXX 欠損株の感染実験において、咳嗽発作が著しく減弱するのは複数回実験を繰り返して確認済みである。 このような状況から、当初のストラテジーに則って CXX 遺伝子を同定することができたが、この成果によって咳嗽発作の原因因子の同定及びその作用機序の解析に発展させることができないことが明らかとなった。次項の「今後の研究推進方法」に記すように、今後は(生菌の感染ではなく)菌破砕液の経鼻投与による咳嗽惹起能を指標に CX あるいは CXX の同定に迫らざるを得なくなり、研究の進捗としては若干の停滞を許すこととなった。しかし、上記 CXX の同定までの過程が予定よりも早く進んだこと、in vitro 培養の菌体成分の経鼻投与による咳嗽発作の有無の確認は当所の計画にも含まれていることから鑑みて、総体的な研究の進捗に遅れは生じていないと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
生菌の感染時の状態と in vitro 培養の状態で、細菌の遺伝子発現様式が異なることが本年度の研究成果により明らかとなったため、研究計画の若干の変更を余儀なくされた。今後は生菌の感染における咳嗽発作を指標に責任遺伝子の探索は望めないことから、in vitro 培養した菌の破砕液の経鼻投与による咳嗽惹起を指標に遺伝子候補を探索する必要があると考えられる。以下の通りそのための予備実験をすでに行い、今後の方針策定のための結果を得ている。 本年度中の研究により、百日咳菌及び気管支敗血症菌の病原性モードと考えられている Bvg+相の菌破砕液の経鼻投与で咳嗽発作が再現することを確認した。非病原性モードと言われる Bvg-相の菌破砕液では咳嗽発作は起こらない。そこで、マイクロアレイ、RNA 塩基配列解析などを通じて、 CX 及び CXX 遺伝子欠損株や Bvg+相菌の in vitro 培養では発現し、Bvg-相菌では発現しない遺伝子に着目して候補遺伝子を再びリストアップし、それぞれの欠損株の菌破砕液による咳嗽発作惹起を指標にして、遺伝子を絞り込む。絞り込みが達成できた場合は、それぞれの組換えタンパク質の咳嗽惹起能、生化学的生物学的機能を状況に応じた方法で解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画通りに予算の執行を行ってきたが、消耗品の一部で当初の提示額よりも購入額を安く抑えることができたため、2,638円の未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
この未使用予算は、次年度の研究計画実施に必要な消耗品の購入にあてる。
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