百日咳で見られる特徴的な咳嗽発作の原因となる病原因子の探索のため、咳嗽発作を再現する実験動物モデルを作製し、百日咳類縁菌の気管支敗血症菌(百日咳菌と相同性の高い病原因子を多種類産生し、百日咳と類似の咳発作を感染動物に起こすことが知られている)の変異株(A 株)が動物モデルに咳嗽発作を起こさないことを発見した。本研究では、この成果を足がかりとして百日咳菌による咳嗽発作の病原因子の同定と発症メカニズムの解明を目指している。前年度までの成果により、 A 株で特異的な変異が見出された遺伝子 cx が転写制御因子であり、そのさらに下流にある遺伝子の CXXa を欠損させた変異株の咳誘発能が低下していることを突き止めた。しかし一方で、CX 欠損株や CXXa 欠損株の菌体破砕液を実験動物に経鼻投与すると、野生型菌の菌体破砕液投与と同程度の咳嗽発作を示すことがわかった。このことから、CXXa は直接の咳誘発因子ではないことが示唆された。また CX の下流を探索する方法で、咳誘発因子の同定に至らなかったことから、咳誘発因子同定のための方法論を再考する必要が考えられた。
そこで本年度は、異なる観点を交えて、 CX の下流にある咳誘発因子の探索を行った。その結果、ポリシストロニックな領域を含めた47箇所の遺伝子領域を候補として挙げることができ、そのうちの一箇所のオペロンを欠損させた際に、生菌および菌体破砕液の経鼻投与での咳誘発能が著しく低下することを見出した。このオペロンには2種の遺伝子が存在(仮に CXXb と CXXc とする)することがわかった。
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