研究課題/領域番号 |
26293100
|
研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
水之江 義充 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (20157514)
|
研究分担者 |
杉本 真也 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (60464393)
田嶌 亜紀子 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (70317973)
奥田 賢一 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (70624245)
岩瀬 忠行 東京慈恵会医科大学, 医学部, 講師 (80385294)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | バイオフィルム / 黄色ブドウ球菌 / バイオフィルム阻害剤 / Eap / SasG / 細胞壁タンパク質 |
研究実績の概要 |
黄色ブドウ球菌の分泌タンパク質Extracellular adherence protein (Eap) は、バイオフィルム形成を促進することを見出した。臨床分離株 (MRSA) のEap単独欠損株を作製したが,バイオフィルムの形成量は低下しなかった。このことよりEapは他のタンパク質との相互作用の結果バイオフィルム形成に関与していると考えられた。そこでEap欠損株を用い細胞壁タンパク質の欠損株ライブラリーを作製した。その結果、EapとSasGの二重欠損株で著しくバイオフィルムの形成が低下することを見出した。SasGはAドメインとBドメインの繰り返し構造から構成され,C末端にLPXTGモチーフを有している。SasGのコンプリメンテーションの解析により,LPXTGモチーフを欠き細胞壁にアンカーしないSasGはバイオフィルムの形成量を回復させないことを見出した。 黄色ブドウ球菌のバイオフィルムdispersalメカニズムを解析した。変異株を用いた解析から菌自身の産生するヌクレアーゼによってdispersalが起きていることが明らかとなった。またその働きには環境中のpHが重要であることが判明した。更にバイオフィルムdispersalに伴って菌表面の分子発現に変化が見られたことから、バイオフィルムから遊離した菌は、異なる病原性を発揮する可能性が示唆された。 バイオフィルム形成阻害剤を取得するため化合物ライブラリーをスクリーニングし、黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成を阻害する化合物を21個取得した。特に高い活性を示した化合物について詳細な検討を行った結果、細胞外多糖と細胞外タンパク質の産生を抑制することが示された。構造類縁体を用いた解析により、活性に重要な官能基を決定することができた。また本化合物は、黄色ブドウ球菌のβラクタム系抗菌薬に対する感受性を向上させることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成においてEapと相補的に機能する細胞壁アンカータンパク質SasGを同定した。SasGのコンプリメンテーション解析の結果、LPXTGモチーフを欠く細胞壁にアンカーしないSasGはバイオフィルム形成量を回復させないことを見出した。 ②ハイスループットスクリーニングにより得られたヒット化合物について構造活性相関研究を行い、バイオフィルム形成阻害活性に重要な構造の情報を得ることができた。 ③黄色ブドウ球菌のdispersalメカニズムを解析した。黄色ブドウ球菌自らが産生するヌクレアーゼによってdispersalが起こることを示した。また、ヌクレアーゼ活性は環境中のpHが重要であることを見出した。
|
今後の研究の推進方策 |
黄色ブドウ球菌特有の細胞外分泌タンパク質Extracellular adherence protein(Eap)はバイオフィルム形成を促進する。Eap欠損株はバイオフィルム形成が低下しないことよりEapは他のタンパク質と相補的にバイオフィルム形成に関与することが示唆された。細胞壁にタンパク質をアンカーさせる酵素sortase A(srtA)とEapの二重欠損株はバイオフィルムの形成が著しく低下した。そこで細胞壁タンパク質の欠損株ライブラリーを作製した結果、SasGとEapの二重欠損株は著明にバイオフィルム形成能が低下した。SasGはいくつかのドメインからなっている。そこで、ドメインミュータントを作製しバイオフィルム形成に重要なドメインを決定する。また、ミュータントの病原性をカイコの感染モデルを用い検討する。 黄色ブドウ球菌は自らが産生するヌクレアーゼによりdispersalが起きることを示した。dispersalによってバイオフィルムから遊離した菌の病原性について明らかにするため、菌表面の分子発現変化のメカニズムと宿主に対する病原性について解析する。 バイオフィルム阻害剤を探索するため大規模なスクリーニングが可能なハイスループットスクリーニングシステムを構築し、黄色ブドウ球菌のバイオフィルムを形成を阻害する化合物を二十数個取得した。特に高い活性を示した化合物の検討により細胞外多糖と細胞外タンパク質の産生を抑制することを示した。今後は、本化合物の標的分子の同定を行うことで、より詳細な作用機序の解明を行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予算に計上していた旅費および物品費の支出が少なかったため平成28年度予算において一部が未使用になった。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度の研究費は、黄色ブドウ球菌のバイオフィルムの形成メカニズムの解明、バイオフィルム形成阻害活性を有する化合物の作用メカニズムの解明およびバイオフィルムdispersalに関わるヌクレアーゼの作用機序を解明するための試薬の購入費および解析費用として使用する予定である。また、国内外の研究成果の発表費用として使用する予定である。さらに論文の投稿のための費用としても使用したいと考えている。
|