研究課題
B型肝炎ウイルス(HBV)は感染を起こすと肝炎は肝硬変を起こしまた肝癌を主要な原因の一つである。HBVのような腫瘍ウイルスが起こす発癌の機構は不明な点が多い。本研究では、宿主の抗ウイルス因子であるAPOBECファミリー蛋白が、これらウイルスの起こす病態にどのように関わるか検討する。APOBECタンパクは、DNAやRNA上のシトシンをウラシルに変換する一連の酵素群でヒトでは、11種類がファミリーメンバーに含まれる。内外のこれまでの研究より、AIDや7種類あるAPOBEC3が、HBVやHPV16に作用する事が試験管内での実験により示されてきた。特にAPOBEC3GについてはHBVに対して抗ウイルス活性が示唆されてきた。我々はこれまでAIDがHBVのRNAゲノムに作用しC-to-Uの変換を起こす事やウイルスDNAに高頻度突然変異を導入しウイルス複製を抑制する可能性を示してきた。また既にAIDがサイトカイン(TGFb)刺激により、ヒト肝細胞株に発現する事が示されていたので、サイトカイン刺激で発現誘導されるAIDに着目した研究を展開した。HBVを持つ肝細胞株にTGFbを投与するとAIDが誘導され、ウイルスのRNA量とDNA量の両方が減り、TGFbはウイルス複製を抑制する事が判明した。次にAID発現を抑制させるとTGFbによるウイルス複製抑制効果が消失し、またTGFb処理をしなくともAIDを強制的に発現させるとウイルス複製抑制が観察された事より、TGFbのウイルス複製抑制効果はAIDに依存する事がわかった。さらに詳細に解析を進めると、AIDはウイルスRNAと複合体を形成し、RNA分解複合体(RNA exosome)を呼び寄せる事によりウイルスRNAを破壊する事が判明した。一連の研究はPlos Pathogensに受理された。
2: おおむね順調に進展している
H26年度は、実績の概要欄で紹介したAIDの新規ウイルスRNA分解機構の発見という大きな進展があった。この業績は、HBV感染におけるAIDの抗ウイルス活性の証明をしたとして一つの到達目標を達成したと言える。スペースの都合で紹介できなかったが、H26年度はHPV16についても進展があった。HPV16は、初感染の時は、多くは患者が気づく事なく感染が終結しており、自然治癒する感染症とされている。しかし、実際にはHPV16は何らかの免疫系の作用によりウイルスが排除されていると考える方が妥当であるが、その免疫系の実態は謎である。H26年は、HPV16ウイルス粒子が組み上がる局面に注目し、APOBEC3が存在するときとそうでない時とでウイルス粒子形成効率を比較した。その結果、APOBEC3CやAPOBEC3Aが共存するときはウイルス粒子形成能が、極度に低下する事を明らかにした。この結果は、APOBEC3ファミリーの抗HPV16作用の一つを示すものであり、これも到達目標の一つが達成された一例といえる。
AIDの新規ウイルスRNA分解機構については、我々が世界に先駆けて見つけた新たな抗ウイルス機構であるので、培養細胞系を用いて、さらに詳細な分子機序を詰める。具体的には、新規ウイルスRNA分解機構に必要なAIDのドメインや ウイルスRNAの配列を決定し、また共益する因子を同定する。さらにAIDも含めて最近樹立されたHBV受容体発現細胞を用いた自然感染系を用いてもAPOBECタンパクの役割を検討していく。一方HPVにおいてはAPOBEC3タンパクのHPV16粒子形成への干渉作用は、その分子機序や他のHPVへ演繹できるかについての一般性を解析する。またこれまで培養細胞系を用いてAPOBEC3がHPV16のゲノムに高頻度変異を導入する事を示してきたが、HPV16感染患者検体でも同様の事が起こっているかを検討し、APOBEC3の生体内での役割に迫る。変異源活性については、次世代シークエンサーを用いたexome解析のセットアップ実験、HBVの核内DNAの変異源解析、HPV16の核内DNAの変異源解析を推進する。特にウイルスDNA挿入が、HBVとHPVのウイルス発ガンに重要なプロセスであるのでウイルスDNA挿入のアッセイ系を立ち上げる。マウスの実験系も順次進めていく。
20470円の未使用額が生じたが、翌年度に使用する事が効率的と考えた為H27年に持ち越しをした。
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Jpn J Infect Dis
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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