研究課題
これまで遺伝子改編酵素群APOBECの抗ウイルス活性を検討してきた。APOBECはヒトでは11種類からなり、DNA上のシトシン塩基をウラシル塩基に変換する活性を持つ酵素である。 ヒトパピローマウイルス(HPV)とAPOBECの関わりについて、試験管実験系を用いて、核内ウイルスDNAへの高頻度変異(多数の変異が蓄積する現象)やウイルス粒子形成の阻害作用を報告してきた。そこで今年は、臨床検体を用いてヒトの感染がおこっている生体内でのAPOBECの役割を研究した。APOBECはその活性が発揮されるとウイルスゲノムに高頻度変異が起こるので、それを臨床検体を中心に解析した。まずAPOBEC3の発現レベルを健康およびHPV16陽性子宮頸部サンプルを用いて調べたところ、ほとんどのAPOBEC3の発現が見られ、HPV16陽性サンプルの方にてAPOBEC3発現が高い傾向が観察された。次にHPV16陽性前癌サンプルにてウイルスDNA上の高頻度変異の蓄積を3D-PCR法という特殊検出法で検討したところウイルスDNA上の高頻度変異が検出された。さらにはウイルスゲノムDNAについて次世代シークエンス法で変異解析を行った。その結果、シークエンスした全領域について高頻度変異が確認できたが、それは必ずしもランダムに起こっている訳ではなく、一定の変異の偏りを検出しその変異パターンから、その変異を作った因子はAPOBEC3である事が示唆された。従って、これらの知見は、APOBEC3がヒト感染病態においてもHPVウイルスゲノムを標的にしている証拠であり、また変異蓄積の分子メカニズムの特徴の一旦を明らかになった。今後、HPV16誘発性発癌の様々な局面でのAPOBEC3の役割をさらに明らかにしてく必要がある。また宿主ゲノムDNAの変異解析は行なっておらず、今後ウイルスDNAと宿主ゲノムDNAの同時解析が望まれる。
2: おおむね順調に進展している
HIVやHBVで、抗ウイルス活性が注目されたAPOBECタンパク群のHPVウイルス感染症における役割を決める事が、本研究の重要な研究目標の一つであった。本年度は、APOBECタンパクのHPV16における役割を多面的に解析した結果、in vitroの実験よりAPOBECがウイルス粒子集合プロセスに干渉すること、患者病態でもAPOBECが高頻度変異を導入する事を明らかにした。
最終年度であるので、研究を取りまとめる方向と、可能性やポテンシャルの高低により、ある程度研究の集約化を行う。B型肝炎ウイルスの研究については、これまで明らかとしたAIDのHBV RNA分解誘導活性について、分子生物学的にさらに機序解明に取り組む。またマウス肝炎モデルを用いてAIDのHBV RNA分解誘導活性をしめせるか検討を行う。さらにこれまでセットアップしたNTCP発現ヒト肝細胞株を使った自然感染HBV複製モデルを用いてAPOBECの役割を検討する。HPVの研究については、これまで子宮頸癌に関わる臨床検体や試験管実験系を用いて研究しいっての成果をあげた。一方 HPVは咽頭癌においても重要な発癌ソースであるので、咽頭癌において子宮頸癌で得た知見が演繹できるか検討する。
大学院生の学位取得や卒業の結果、研究に従事する研究者の数が一時的に、少なくなった。その結果、消耗品消費量が若干少なくなった。
学生の数の一時的減による消耗品の消費が次年度使用額発生の原因である。次年度は、人数が増えるので、特に特別な対策を立てず、計画通り研究遂行を行う。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
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