研究課題
HIV-1は宿主域が狭く適切な実験動物モデルが存在しない。このHIV-1の特性は、病原性発現機構の解明等の基礎研究、また、新規抗HIV-1薬の開発基盤構築やワクチン開発等の臨床応用研究の大きな障壁となっている。本研究の研究代表者らは、HIV-1/エイズ研究の霊長類モデルの樹立を目指し、様々なウイルス抑制細胞因子に抵抗性を示す一連のマカクザル指向性HIV-1(HIV-1mt)を作製してきた。本邦と欧米諸国の研究者の研究成果から、アカゲザルがHIV-1/エイズの動物モデルとして最適とされている。研究代表者らは、アカゲザル由来末梢血単核細胞(PBMC)において、SIVのアカゲザル病原性標準株(SIVmac239)と比肩できるレベルで増殖するHIV-1mtクローン(MN4/LSDQgtu)を世界に先駆けて構築した。米国の研究グループが作製したクローンと比較したところ、MN4/LSDQgtuはアカゲザル細胞(株化細胞およびPBMC)で最も効率良く増殖するHIV-1mtであることが明らかになった。接種実験の結果、SIVmac239には劣るものの、MN4/LSDQgtuはアカゲザル個体でも増殖可能であり、アカゲザル指向性ウイルス(HIV-1rmt)であることが示された。しかし、感染アカゲザルにウイルス接種による症状等は全く認められなかった。一方、アカゲザルM1.3S細胞を用いたMN4/LSDQgtu由来フレームシフト変異体クローンの感染実験から、Vifはウイルス複製に必須であり、他の全てのHIV-1アクセサリー蛋白質もサル細胞におけるウイルス複製に必要であることもわかった。注目すべきことに、Vpr欠損体がVpuやNef欠損体より複製能が減弱していた。これらの成績はアクセサリー蛋白質とHIV-1の個体内複製機序や病原性発現機構を考える上で基盤となる重要な成果である。
2: おおむね順調に進展している
HIV-1は高度にヒトに特化したウイルスであるが、この特性を担うのは主としてアクセサリー蛋白質である。種々のSIV/HIVは特有の組合せのアクセサリー蛋白質を有し、HIV-1もアクセサリー蛋白質として固有のVif、Vpr、VpuおよびNefをコードしている。分子・細胞レベルにおけるHIV-1アクセサリー蛋白質の研究は非常な勢いで進展したが、感染個体におけるウイルス複製動態やエイズ発症に関与するウイルス・宿主要因の実験的研究はほとんど行われていない。HIV-1の個体内複製機構とエイズ発症機構を実験的に解析するため、これまでに様々な動物モデル(ヒト化マウスや霊長類等)が提唱されている。感染実験用ウイルスとしては、SIVmac、SIVmac をベースにしたSIV/HIV-1遺伝子組換えウイルスSHIVが頻繁に用いられている。それぞれの系には一長一短があるが、HIV-1がヒトに特化したウイルスであること、また、ウイルス特異的アクセサリー蛋白質の存在を考えると、できる限りHIV-1そのものを使用する実験系が望ましいと思われる。多くの研究者の研究成果から、発症実験動物モデルとしてはアカゲザルが最も適していると考えられる。本研究は、HIV-1mtクローンMN4/LSDQgtuを基に、HIV-1の個体内複製とその病原性発現機構の実験的解明を目指し、アカゲザル細胞・個体を用いたアクセサリー蛋白質群の系統的機能解析を行うものである。平成26年度までに、MN4/LSDQgtuがアカゲザル個体で再現性良く増殖するHIV-1rmtであることを実証した。また、HIV-1の全てのアクセサリー蛋白質がアカゲザル細胞でのHIV-1複製に必須あるいは必要であることを示した。さらに、アカゲザルに病原性を示すSHIVad8とMN4/LSDQgtuの比較解析から、Env蛋白質がウイルスの持続感染性や病原性に関与することを示唆する成績も得ている。これらを総合して考えると、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
1.病原性SIVクローンSIVmac239と比較すると低レベルであるが、MN4/LSDQgtuはアカゲザル個体で再現性良く増殖することが明らかになり、アクセサリー蛋白質の個体内機能の解析が可能となった。そこで、現有のフレームシフト変異によるアクセサリー蛋白質欠損体とは別に新たに欠損体/変異体を構築し、その細胞レベルおよび個体レベルの増殖能を解析する。2.CXCR4指向性MN4/LSDQgtuはアカゲザルで増殖するが、病原性を示すことはなかった。そこで、アカゲザル個体内増殖能の向上とアカゲザルに対する病原性獲得を目指し、CCR5指向性Envを持つ種々のウイルスクローンを構築する。新クローン構築には、まず、病原性SHIVad8、SF162および臨床分離株由来Envを用いる。用いるEnvがMN4/LSDQgtuにフィットせず、高複製能のウイルスが得られない場合は、Env改変体や他のCCR5指向性Envの使用も考慮する。構築した各種ウイルスクローンはそのアカゲザルM1.3S細胞やPBMCにおける増殖特性をSIVmac239やMN4/LSDQgtuと比較・検討し、アカゲザル個体感染実験用のクローンを選択・実験する。3.病原性クローンが得られれば、上記1と同様にそのアクセサリー蛋白質欠損体/変異体を構築し、その細胞レベルおよび個体レベルの増殖能を検証する。病原性クローンが得られなかった場合は、感染アカゲザルのリンパ節等を個体継代してウイルス馴化を試みる。また、上記2で構築したウイルスクローンをアカゲザル同一個体に混合感染させ、感染経過を観察する。この個体由来ウイルスについても個体継代してウイルス馴化を試みる。馴化により病原性ウイルスが得られた場合は、速やかに分子クローン化するとともにアクセサリー蛋白質欠損体/変異体を構築し、その細胞レベルおよび個体レベルの増殖能を検証する。4.以上により、アカゲザル細胞・個体を用いたアクセサリー蛋白質群の系統的機能解析を行う。
専門業者の都合により、平成26年度に予定していたアカゲザル購入ができなかったため、PBMC感染実験は一部可能であったがMN4/LSDQgtuの個体感染実験(上記)以外の個体感染実験が実施できなかった。予定していた個体感染実験経費を平成27年度のアカゲザル購入用に繰り越した。
平成27年度は可能な限り多数のアカゲザルを購入し、ウイルス個体感染実験とPBMC感染実験を行う。当初から平成27年度に予定していたアカゲザル個体感染実験以外の実験研究は計画通りに実施する。これらにより、本研究を着実に進展させ目標達成を目指す。
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