研究課題
培養細胞を用いた実験によって、TMPRSS2で活性化されることが明らかになっているヒトのARIウイルスは、インフルエンザウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス1-4型、SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス、NL63コロナウイルスである。これまで解析を行ったインフルエンザウイルス株は、季節性インフルエンザウイルス株に由来するA/California/04/09 (H1N1)株と、A/Guizhou/54/89 (H3N2)株である。TMPRSS2が、広範な亜型のインフルエンザウイルス株、とくに高病原性インフルエンザウイルス株のin vivo増殖に関与しているかを解析した。ウイルス株としてA/Vietnam/1194/04 (H5N1)、A/Anhui/1/2013 (H7N9)を用いた。これらのウイルス株をC57BL/6由来のTMPRSS2 -/- (KO)マウス、TMPRSS2 +/+ (WT)マウスに、経鼻で接種し、肺内感染性ウイルス量解析ならびに病理像の解析を行い、それぞれのウイルス株による感染像を明らかにした。A/Vietnam/1194/04 (H5N1)株は、TMPRSS2 -/- (KO)マウスに対しても強い病原性を示したが、A/Anhui/1/2013 (H7N9)株については、季節性インフルエンザウイルスと同様に、TMPRSS2 -/- (KO)マウスに対して、ほとんど病原性を示さなかった。上記のA型インフルエンザウイルスのみならず、B型インフルエンザウイルスについても、同様の実験を実施した。その結果、B型インフルエンザウイルスは、TMPRSS2 -/- (KO)マウス内で、TMPRSS2 +/+ (WT)マウス内と同様の増殖を示すことが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
計画通り、高病原性インフルエンザウイルス株のin vivo増殖に対するTMPRSS2の関与を明らかにすることができた。加えてB型インフルエンザウイルスについても、解析を完了できた。
ヒトパラインフルエンザウイルスには4種類がある。培養細胞を用いて、これら全てがTMPRSS2で活性化されることを既に明らかにしている。マウスでの増殖性は、充分には分かっていない。野生株を順次感染させてマウス性を確認後、TMPRSS2 KOマウスへ接種する。TMPRSS2 +/+ (WT)マウスで増殖する株が見られた場合には、インフルエンザウイルスと同様の実験をTMPRSS2 -/- (KO)マウスならびにTMPRSS2 +/+ (WT)マウスで実施する。加えて、マウスで肺炎を起こすことが明らかであるSeV(マウスパラインフルエンザウイルス1型)を用いて同様の解析を行う。われわれは蛍光タンパク(GFPならびにRFP)を発現する組換えヒトメタニューモウイルス(JPS02-76-EGFP、JPS02-76- RFP)株の作成に成功しているので、本株を実験に用いたいと考えている。蛍光タンパクを発現するウイルスを用いることによって、感染個体内でのウイルス増殖が高感度に捉えられることが多くの実験で示されている。 しかしながら、われわれのこれまでの実験でJPS02-76-EGFP、JPS02-76- RFPがマウスではほとんど増殖できないことが明らかになっている。JPS02-76- RFP株を、マウスで継代して、マウスで増殖するJPS02-76- RFP株を得る。得られたウイルス株のゲノム遺伝子配列を解析して、マウス増殖に必要な遺伝子変異を特定する。その変異を組換えウイルスに人工的に導入して、マウスで増殖するJPS02-76- RFP variantを用意する。インフルエンザウイルスと同様の実験をTMPRSS2 -/- (KO)マウスならびにTMPRSS2 +/+ (WT)マウスで実施する。TMPRSS2の役割を明らかにするとともに、ウイルス増殖を蛍光で捉えられる利点があるので、蛍光イメージングによって、ヒトメタニューモウイルスが多段階増殖する場を詳細に解明する。
一部、他の業務のため、実験計画の実施が遅れたため、次年度に使用する計画になった。また、年度末納品等にかかる支払いが平成27年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。
上記のとおり。また、研究協力者を一名増やし、H26年度に実施できなかった実験を、次年度に全て実施する計画である。
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J Virol
巻: 89 ページ: 5154-8
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http://www.nih.go.jp/niid/ja/from-vir3.html