研究課題
膵がんの五年生存率は1割前後であり30年来改善していない。とりわけ手術適応のない進行性膵がんでは、抗腫瘍剤が主な治療法となるものの予後は6か月未満と特に短い。すなわち投与薬剤が有効に奏功していないと考えられる。このように抗腫瘍薬剤の奏功程度が低い原因を腫瘍細胞以外の腫瘍組織構築因子に求め、本研究では、ヒト膵癌由来細胞を用いた新規三次元培養系の構築を通じて、薬剤送達経路である1)腫瘍血管と2)腫瘍線維組織に求める仮説の実証を進める。膵星細胞(pancreatic stellate cell; PSC)は両因子ともに関与が考えられるが、申請者の研究視点からPSCの関与を探る研究はこれまでなかった。本研究ではPSCを用いた立体培養系を構築して、分子生物学的に加えてナノ薬剤の挙動という観点から解析を行い、PSCの膵癌への関与メカニズム解明とそれに基づいた制御法開発を目指すことを目的として進めている。本研究では、前述した目的を達成するために、研究分担者により採取された膵星細胞(PSC)を用い、立体培養・立体共培養の方法を再現性良く構築し、機能的・形態学的に動物・ヒトとの比較を通じて妥当性の付与を試み、確立された立体培養系の生物学的解析を行いて、PSCの制御法開発に至ろうとする計画で研究を進めている。平成26年度は共同研究者から提供された複数のプライマリーカルチャーPSCにより立体培養や血管内皮細胞との立体共培養の構築に着手し、成功を収めた。PSCの由来による性質の違いについても明らかにされ始めた。また、ナノ粒子モデルとしての高分子デキストランの分布解析を通じて、細胞によって立体培養時の透過性が異なる可能性が示された。動物実験において、CAPAN-2細胞とPSCを混ぜ皮下移植することによる実験系が作成可能であることが判明した。
2: おおむね順調に進展している
複数のプライマリーカルチャーPSCにより立体培養や血管内皮細胞との立体共培養の構築に成功し、PSCの由来による性質の違いについても明らかにされ始めたこと、ナノ粒子モデルとしての高分子デキストランの分布解析を通じて、細胞によって立体培養時の透過性が異なる可能性が示されたこと、動物実験において、CAPAN-2細胞とPSCを混ぜ皮下移植することによる実験系が作成可能であることが判明したことから、おおむね目的通り、順調に進行しているものと考える。
まずプライマリーカルチャーの場合再現性に困難が伴う場合が見られたため、今後は不死化PSCを用いても、培養系の確立及び動物実験系でもナノ粒子挙動の解析を行い、整合性を確認する。形態的妥当性については、本研究の立体培養方法がナノ薄膜のみを介して細胞同士が接着するため、細胞密度が非常に高いのに対して、ヒト膵がん組織を電子顕微鏡により観察し、PSCの占有体積比率を推定し、本研究による立体培養系と比較する予定である。このために、採取されたばかりのヒト膵がん組織をホルマリンでなくグルタールアルデヒドによる固定が必要である。この過程を研究分担者が行い、この標本を連携研究者に送付して電顕観察に付す。この結果を研究代表者らが画像解析し、立体培養系における細胞外基質成分の付加量にフィードバックを行う。これらについて、得られた結果を取りまとめ必要な特許申請を経て学会発表を行う予定である。
今年度計画を達成するために必要とした実験消耗品費が予定よりも小額であったため。
翌年度計画を加速達成するための実験消耗品費として用いる予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 5件)
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