研究課題
共同研究者により樹立された初代培養のヒト膵癌間質由来の膵星細胞(pancreatic stellate cell; PSC)により立体培養や血管内皮細胞との立体共培養の構築に成功を収めた。PSCの立体培養系で高分子物質の分布解析を通じ、細胞の分泌する線維量と立体透過性が相関することが示唆された。膵腫瘍細胞とPSCを混ぜ動物に皮下移植した実験系を作成した。この動物実験系でデキストラン分布が血管外に移行後やはり腫瘍細胞に至らずPSCの分布に阻まれることが示唆された。関連して、BxPC3腫瘍細胞とFGF-2を混合して動物移植すると、FGF-2を混合しない場合に比較し間質コラーゲン量が増加し、薬剤の送達及びアルブミンパクリタキセルによる治療効果が減弱した(J Control Release, 230:109-115)。in vitro立体培養について共同研究者により樹立された不死化PSCを用いても成功した。ただし血管内皮細胞の共培養は現時点で不死化PSCでは未達である。並行して立体細胞培養の方法を一般に簡便化し特許出願した。共同研究者により採取されたヒト膵がん組織の電子顕微鏡(電顕)観察をまず一症例行った。立体培養PSCの電顕観察にも着手した。結果、従来法よりも特許出願した新規の簡便培養法でヒト症例と同様の構造が再現されてきていたが、細胞外基質は形態学的には従来法新規法ともほとんど存在しないことが判明したが、光学顕微鏡免染上は存在が観察された。他方で、BxPC3細胞の動物移植系において、これまで静的な特性と考えられてきた、腫瘍血管高分子物質漏出性の時空間的動的変化が見られ、これを共同報告した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は次に詳しく述べる通りであるが、これに照らして、順調に進展している。本研究の目的とはすなわち、膵がんの治療効果はここ30年来ほとんど改善しておらず、とくに手術適応のない進行性膵がんでは抗腫瘍剤が主な治療法だが、平均予後が6か月未満と特に短く、投与薬剤が十分有効には奏功していないと考えられることのメカニズムを、新規実験系の構築を通じて解析することである。最近ナノ薬剤であるアルブミンパクリタキセル(アブラキサン)が予後延長を示し臨床認可されたが、どのような患者では奏功しにくいのかまだ十分には明らかではない。この現状を踏まえ、本研究では、抗腫瘍薬剤の奏功程度を左右する原因を薬剤送達経路としての腫瘍細胞以外の腫瘍組織構築因子すなわち腫瘍間質に求め、PSCを用いた新規三次元培養系の構築を通じて、仮説の実証を進めることを、本研究の目的としている。これにたいして、おおむね順調な進展があった。
これまでTGF-β阻害が膵がんにおけるナノ薬剤送達の改善効果を持つ可能性を動物モデルにおいて示してきたが、これをPSC立体培養の系で確認し、さらに細胞外基質分泌を含めて説明因子の探索を行う。一つの不死化PSC株で成功したのち、複数の株でも同様の挙動が観察できるかを確認する。並行して、不死化PSCおよび血管内皮細胞を用いて血管様構築が可能であるかを検討する。これらのためにも引き続き、ヒト膵がん間質およびPSC立体培養組織の電顕観察を行う。
本年度研究進捗内容が、予定していた予算額よりも少ない額で実現できたため。
主として物品費(実験消耗品費)として用いる予定である。
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J. Control. Release
巻: 230 ページ: 109-115
doi:10.1016/j.jconrel.2016.04.007
Nat. Nanotechnol.
巻: 掲載確定 ページ: 掲載確定
doi:10.1038/nnano.2015.342