研究課題/領域番号 |
26293120
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
伊藤 孝司 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部, 教授 (00184656)
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研究分担者 |
辻 大輔 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部, 助教 (00423400)
広川 貴次 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 創薬分子プロファイリング研究センター, 研究チーム長 (20357867)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ネオグライコバイオジクス / リソソーム病 / エンドグリコシダーゼM / N型糖鎖オキサゾリン誘導体 / タンパク-タンパク相互作用 / 酵素補充療法 / 疾患iPS細胞 |
研究実績の概要 |
リソソーム病に対する新規根本治療法の開発を目指し、H27年度は、 1.リソソーム性β-ヘキソサニミダーゼA(HexA, αβヘテロ二量体)を構成するヒトα鎖欠損症で、脳内GM2ガングリオシド(GM2)の過剰蓄積と中枢神経症状を伴うテイ-サックス病を対象とし、改変型ヒトβ鎖遺伝子を恒常発現する哺乳類CHO細胞株の培養上清から、HexAと同等のGM2分解能とプロテアーゼ抵抗性を有する改変型HexB(mod2B,ββホモ二量体)を精製した。本mod2Bを、β鎖欠損症(ザンドホッフ病)モデルマウスの脳室内に、2 mg/kg体重で2回投与したところ、脳実質内のGM2分解活性が回復し、MSイメージングによる各脳領域での蓄積GM2の減少と運動機能低下の遅延および寿命の延長との相関を明らかにした。 2.補充治療用酵素の新規生産基材としての組換えカイコの開発を目指し、ヒトリソソーム酵素であるカテプシンA(CTSA)を発現するTg-CTSAに加え、α-イズロニダーゼ(IDUA)遺伝子を絹糸腺で恒常発現するTg-IDUAカイコ系統を作製し、また中部絹糸腺からの活性型IDUAの精製に成功した。末端マンノース残基含有ヒト様高マンノース型糖鎖の部分構造をもつ組換え酵素は、単球/マクロファージ表面のマンノースレセプター(MR)との結合を介して取り込まれ、リソソームへと輸送された。さらにエンドグリコシダーゼM(endoM)がもつトランスグリコシレーション作用により、カイコ由来IDUAの付加N型糖鎖を合成末端マンノース6-リン酸(M6P)含有高マンノース型糖鎖に挿げ替えたネオグライコIDUAの創製に成功した。この人工IDUAは、IDUA欠損症(ムコ多糖症1型)患者由来培養線維芽細胞に、カチオン非依存性M6Pレセプター(CI-M6PR)を介して取り込まれ、リソソームまで輸送され、欠損し酵素活性を回復させた。カイコ絹糸腺由来ヒトリソソーム酵素は、低糖鎖抗原性の補充治療用酵素原薬として有用であると期待された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまで全く根本治療薬の無いテイ-サックス病を対象とし、in silicoで改変型ヒトβ鎖遺伝子(mod2B)をデザインし、mod2Bを恒常発現する哺乳類CHO細胞株を樹立し、その培養上清から精製した改変型HexB(mod2B,ββホモ二量体)をβ鎖欠損症(ザンドホッフ病)モデルマウス脳室内へ投与することにより、脳実質内の蓄積GM2の分解と運動機能改善および寿命を延長させることに成功(J. Clin. Invest.で発表、徳島大学からプレスリリースした)し、新規治療用シーズとしての有用性を示すことができたため。 また組換えカイコ絹糸腺から精製した、ヒト様N型糖鎖含有ヒトα-イズロニダーゼ(IDUA)をアクセプター、および化学合成した末端マンノース-6-リン酸(M6P)含有N型糖鎖誘導体をドナーとし、さらに改変型エンドグリコシダーゼ(endoM)のトランスグリコシレーション触媒作用を利用して、カイコ由来ヒトIDUAに人工的に末端M6P含有糖鎖を付加したネオグライコ酵素を作製し、M6Pレセプターとの結合を介してIDUA欠損症患者由来線維芽細胞内に取り込ませ、リソソーム内での欠損酵素活性を回復させることに成功したため。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに樹立したテイ-サックス病患者由来iPS細胞株から、培養ヒト神経系細胞を誘導し、病態モデルとしての妥当性を評価するとともに、CHO細胞由来の改変型ヒトHexB(mod2B)の補充効果を検討する。またカテプシンA(CTSA)症患者iPS細胞由来神経系細胞の誘導法も確立するとともに、組換えカイコ絹糸腺由来ヒトCTSAに末端M6P含有糖鎖を付加したネオグライコCTSAを作製し、患者iPS細胞から誘導した神経系細胞に対する補充効果を検討し、ヒト神経系細胞に対するネオグライコ酵素の有効性を評価する。
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