研究課題
糖尿病性腎症はじめ心血管病変など糖尿病臓器合併症は増加の一途である。腎症など糖尿病臓器合併症は予後不良であり、病態解明と予後を示すバイオマーカー確立は喫緊の課題である。本研究は、腎症など臓器合併症、生命予後に重要な貧血に注目し、エリスロポエチン受容体(EPOR)阻害を介する臓器合併症、貧血の機序解明を目指す。糖尿病臓器合併症の共通進展機序である高糖刺激に着目し、培養ヒト血管内皮細胞におけるエリスロポエチン(EPO)投与有無による網羅解析とそこから得られた特異的な共通応答分子とその障害機構を検討した。高糖下での培養ヒト血管内皮細胞では既知の約35000の遺伝子群の発現変動に加えて、ことに向炎症性遺伝子群発現亢進を確認した。一方、EPO投与によりTRAF4などの生体環境のホメオスターシス維持に関与する遺伝子の発現亢進、炎症シグナルの低下を確認した。これらの結果より、EPOR阻害に伴い、炎症カスケードの遺伝子発現と細胞保護につながる環境調節因子低下が生じる可能性がある。そのため、細胞機能障害、炎症増悪から糖尿病臓器合併症の発症、進展につながることを推測した。我々が世界に先駆けて発見した抗EPOR抗体の臨床検査診断法としての臨床的意義に関連し、「エリスロポエチン応答性の診断方法」として特許登録された(平成26年9月26日、特許第5618038号)。今後、腎、心病変など糖尿病臓器合併症にはたすEPO-EPORシグナルを介した分子基盤を確立する。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、糖尿病臓器合併症の発症、進展の共通基盤である高糖に着目し、共通の障害部位である血管内皮細胞のトランスクリプトーム解析が進行した。バイオインフォマティクスの技術を用いて、血管内皮細胞に特異的な糖応答機構、ことにエリスロポエチン受容体(EPOR)の下流シグナルとその転写因子の探索を行った。その結果、高糖に応答する細胞保護シグナルの存在を確認し、詳細な機序の検討を進めている。さらに、我々が世界に先駆けて発見した新規抗EPOR抗体の臨床検査診断法としての臨床的意義に関連し、「エリスロポエチン応答性の診断方法」として特許登録された(平成26年9月26日、特許第5618038号)。このように、本研究の体制基盤を確立し、これらを背景として、EPOならびに受容体を介した糖尿病性臓器合併症の発症、進展にはたす新規細胞、臓器保護分子ならびにそのメカニズムの解析が進んでいる。
平成27年度も引き続き、血管内皮細胞を中心に高糖刺激に伴う既知ならびに未知の細胞保護に関連する遺伝子とそのシグナル伝達―核内転写因子のパスウェイの同定とその遺伝子群の検証を行う。さらに、in vitro研究で得られたEPOR関連の特異的遺伝子(因子)情報を用いて、実験糖尿病モデル動物で機能解析を行い、その有用性をヒトサンプルでも検証する。貧血改善作用を持たないカルバミル化EPOを投与し、腎、心の臓器病変の改善効果を検討するとともに、小動物SPECTを用いた可視化研究を進める。さらに、新規抗EPOR抗体の臨床検査診断法として臨床的な意義を検討する。金沢大学の腎生検コホート症例の腎生検時の保存血を用いて本自己抗体を測定し、貧血、骨髄所見を有する症例では骨髄中の赤芽球系細胞、腎、心、脳の臓器病変との有無とその程度を比較検討する。すでに本学のみならず他施設からの貧血例の検体の測定を行っているなど本研究の解析は進行中であり、十分な成果が得られる見込みが高い。さらに、国内、国際会議における会議等の密接な交流により、本研究課題の取組みへの緊密な関係を構築、維持、発展させる。
すべて 2015 2014
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Clin Exp Nephrol
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