研究課題
本研究は、生体内水分子の3次元的な拡散現象の計測に基づき生体構造の推定が可能である拡散MRIデータを用いて、以下の研究を行うことを目的としている。(1)生体内の大域~局所~微細構造をマルチスケールで扱う新しい統合モデルの構築、(2)統合モデルのパラメタを頑健かつ高速に推定する計算手法の確立、(3)統合モデルのパラメタ群の組み合わせによる新しい診断情報の創出のための基礎的検討具体的には、脳白質線維の錐体路を中心とした神経線維束構造のモデリングを行い、脳梗塞、多発性硬化症などの神経系に影響を及ぼす疾患および加齢変化が対象である。初年度であるH26年度においては、研究目的の(1)および(2)を中心に行った。すなわち、モデル構築の方針として、従来のBall and Stick Modelなどのモデルと同様に、拡散の等方性を有する部分と線維構造により異方性を呈する部分の混合とし、モデルの設計を行った。同モデルでは、同時に周辺との連続性を考慮するため、そのモデルパラメタの推定時に正則化項を導入した形とするようにした。一方、高速な計算を実現するために、GPUを有する計算機を導入して、その効果を検討した。ただし、実計算部分は本年度に行うため、既存のテンソルモデルの計算による確認である。その他、DKIモデルにおける画像の正則化、拡散MRIのq空間データよりODFを再構成する方法についても検討した。これらの成果は2つの国内学会で既発表であり、1つの国際学会で発表予定である。
2: おおむね順調に進展している
異動(東大病院講師→広島市立大教授)により、臨床MRI機へのアクセスは不便になったが、連携研究者との密な協力および年度あたり数回の東京出張によりこれをカバーしており、計画の遅れはない。
本年度では、画像信号値と3次元ODFを用いたモデルパラメタの推定の実計算に着手する。当初の計画通り、L1ノルム最小化やTotal Variationなどによる正則化によりパラメタ空間で大域的な最適性が保証されるような目的関数および最適化法を設計する予定である。また、Structured Sparsityにより線維交叉部を含めた全体構造の滑らかさが保証されるような計算手法の確立を目指す。具体的には、モデルパラメタを推定するための目的関数の設計と最適化法の選択である。最適化時のパラメタの検討も必要である。また、連携研究者より拡散MRI以外のモダリティデータとして顕微鏡のデータを入手したため、これを結果の評価に援用することとした。すなわち、拡散MRIでは得られないミクロンオーダーの3次元ボリュームデータであり、拡散MRIを撮影した実験動物(マウス)の脳標本より作成したものであるため、モデル推定の結果を顕微鏡画像にて確認することができる。ただし、拡散MRI-顕微鏡データ間の位置合わせが必要であるため、そのレジストレーション手法についても検討することとする。
申請者が異動したため、前所属の研究施設(東大病院)および連携研究者の施設(順天堂大学)への旅費が必要と考え、3~4回程度の出張経費を残しておいたが、研究打ち合わせを他の出張機会やskypeによるミーティングで行ったため使用しなかった。
連携研究者、研究協力者との研究打ち合わせのための旅費および物品に使用する予定である。
申請者が代表者を務める日本磁気共鳴医学会のスタディグループ「MRイメージングおよび画像解析における数理問題の研究とソフトウェア開発」において拡散MRI解析ソフトウェアのソースコード配布を行い、現在、10弱の施設において利用されている。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (3件)
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