研究課題/領域番号 |
26293158
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
鴨打 正浩 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (80346783)
|
研究分担者 |
福田 治久 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30572119)
北園 孝成 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70284487)
馬場園 明 九州大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90228685)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 脳卒中 / 医療システム / 患者アウトカム / 診療行為 / 医療費 |
研究実績の概要 |
本年度は脳卒中患者登録と臨床情報の収集を行い、患者アウトカムに影響を及ぼす因子の同定を行った。 高齢者に対するrt-PA治療の有効性を明らかにするため、薬剤認可前と後に登録された80歳以上、発症3時間以内の急性期脳梗塞患者953人を対象に検討を行った。全体集団ではrt-PA認可後の期間中153人にrt-PAが投与され、複数の交絡因子を調整してもrt-PA治療は神経学的改善、機能予後良好と正に関連し、院内死亡と負の関連をしていた。プロペンシティースコアをマッチさせた患者対照集団でも、rt-PA治療は神経学的改善(オッズ比2.67、95%信頼区間1.61-4.40)、機能予後良好(オッズ比2.23、95%信頼区間1.16-4.29)、院内死亡(オッズ比0.30、95%信頼区間0.13-0.65)について、良好な転帰と関連していた。 また、脳梗塞後の短期予後における性差を明らかにする目的で、発症24時間以内、発症前に自立していた初発脳梗塞患者6,236人(女性38.5%)を対象に検討した。その結果、入院時の重症例は女性に多く、神経学的改善、増悪に関しては性差が見られなかったが、女性は退院時機能予後が有意に悪かった。年齢、脳梗塞病型、入院時神経学的重症度、危険因子、発症後治療などの交絡因子を調整しても、女性は独立して機能予後不良と関連していた(オッズ比1.30、95%信頼区間1.08-1.57)。一方、この関連は70歳以上の患者においてのみ認められた。 これら一連の結果は診療行為と患者アウトカムの関連を明らかにする上で、基礎的データとなった。次年度以降は、さらに診療行為と患者アウトカムの関連性を明らかにしていく予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年3月末までに同意取得患者数は10,466人となり、当初の目標である1万人を越えた。また、登録ベースライン情報の入力は、平成27年3月末までに10,091人において終了した。追跡調査に関しては機能予後、生命予後、イベント発生時の疾患情報の収集を行い、現在まで94%と高い追跡率を維持している。これらのベースラインデータ収集とデータベース構築はほぼ予定通りのペースで進捗している。 入院中の脳卒中患者に対して行われた診療行為をデータベース化するために、DPC情報の解析に関する研究計画を各施設の倫理審査委員会に申請し、全ての施設で承認を得た。さらに実際のデータ収集に先立ち、各施設におけるDPCデータ情報(様式1、Eファイル、Fファイル、Dファイル、様式4)の格納、保存状況について聴取し、個別の状況に応じたセキュアでスムーズな情報処理方法を検討した。データ解析に当たって各研究参加施設と覚書を交わし、倫理的側面、技術的側面、知的財産権など種々の問題に対応すべく準備を行った。また、DPCデータのうちEFファイルに関しては、DPCデータの診療行為と脳卒中データベースの臨床情報と連結するためのマスタファイルを作成し、SQLサーバを用いて臨床情報との連結を可能にするコマンドを作成した。これらは本研究を遂行する上で、必要かつ不可欠な研究基盤である。したがって現在まで順調に研究は進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度以降も同意をいただいた脳卒中患者の追跡調査を定期的に行い、予後調査を継続する予定である。次年度以降は、実際のDPCデータを行い、診療行為、診療点数に関して網羅的に情報を収集する。さらに臨床情報との突合を行い、解析に資するデータベースを構築する。これらのデータベースを用いて、診療行為と患者属性・背景との関係性について、機会学習手法を用いて明らかにする。アウトカムとの関連性が見られた因子については、多変量調整を行いさらに検討する。最終的には診療行為によるアウトカムの予測やシミュレーションを可能とするモデルを作成する。さらに医療費に関してもアウトカムを最適に保ちながら、効果的かつ効率的な医療を実現するための予測式を作成する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
Web会議などを用いることで、成果発表、研究打合せ、あるいは情報収集のための交通費、旅費が当初の見積もりより少額となった。情報収集プログラムを自ら作成し電子的に情報を収集したために、外注費、人件費が見積もりより少なかった。データ構築の際のデータサーバなどは既存の機器を使用し、SQLなどのソフトウエアは学内共通ライセンスを利用することにより経費の削減を行った。
|
次年度使用額の使用計画 |
海外で積極的に成果発表を行うため、次年度使用額は主に海外学会出張の旅費に使用する予定である。海外における研究成果発表、あるいは研究情報交換の目的での海外研究者との交流は、外的妥当性の検証など今後さらに研究を展開する上で重要になると考えられる。また、次年度以降はビッグデータ解析のための情報基盤の構築に注力し、データサーバを活用した環境整備に研究費を投入する予定である。また、データの収集、入力は、人件費・謝金を用いて処理する。さらに次年度使用額を用いて解析ソフトウエアを購入することで、解析スピードを早める。
|