1.頭部外傷患者では脳損傷を受傷直後に心停止を来して急死または蘇生後に死亡することがある。受傷直後に心停止を来した患者の法医解剖では、脳損傷が進展していなく軽度であり、また、脳浮腫や脳ヘルニアが形成されていなく、頭部外傷を死因とすることが困難である。頭部外傷が心停止を来す機序の解明は法医解剖での死因診断に有用であり、患者の救命や外傷の予防にも役立つ。本研究では脳損傷のモデル動物を用いて、脳幹部損傷の診断方法を考案し、頭部外傷が脳幹部の損傷を来して心停止による急死を生じうることの証明につなげる。 2.マウスの局所性脳損傷モデルを用いて大脳に損傷を形成し、脳内の損傷を動物用MRI撮影装置を用いて受傷後1月間観察したところ、受傷後の経過によって大脳の損傷は増大し、モリス迷路試験による神経機能も受傷後に低下することを確認した。現在、脳幹部を含めた損傷の広がりについて組織学的に検索している。また、大脳皮質の損傷について老化細胞マーカーの発現を組織学的に検索したところ、SAβGalとp16の発現が認められ、脳損傷の進展に老化細胞が関与していることが示唆された。マウスのびまん性損傷モデルでは海馬に神経細胞死が認められた。 3.当講座で行った頭部外傷の法医解剖67例のうち、受傷直後に心停止の状態であった患者3例について心停止の要因を検討した(倫理委員会承認番号3396)。何れも頭頂部に損傷があり、1例でびまん性脳損傷が認められた。2例で頸部過伸展を示す所見、血中のアルコールが認められた。頭頂部打撲によるびまん性脳損傷、頸部過伸展及び飲酒酩酊が受傷直後の心停止に関係することが考えられた。 4.頭部外傷で心停止を来す脳幹部損傷は現在のところ組織学的に確認されなかったが、マウスとヒトの両方で頭頂部の打撲が高頻度に心停止を来すことが判明し、頭頂部の打撲が脳幹部に影響して心停止を来すことが考えられた。
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