研究課題
ウェルナー症候群(Werner syndrome, WS)はRecQヘリカーゼファミリーWRNを原因遺伝子とする常染色体劣性の遺伝性早老症である。20歳代から毛髪変化や白内障を生じ、骨粗鬆症、筋萎縮、脂肪肝などを併発、悪性腫瘍や冠動脈疾患により50歳代で死に至ることが多い。幼少期から発症する他の早老症と異なり、WSは成人以降に発症し、最もヒトの個体老化に近い疾患である。WS患者のテロメア長は同年代の正常人のテロメア長よりも短いことが報告されており、テロメア短縮と早老症の関連が示唆されている。また、テロメラーゼRNA構成要素TERC欠損マウスは交配世代を経るにつれてテロメア長が短縮し、低身長や骨量減少、寿命短縮などの老化症状を呈すること、加えてWrn遺伝子を欠損させると一部の個体で表現型を悪化させることが報告されている。本研究では、テロメアの不安定性とWRN機能の関連を再確認するために、WRNとテロメラーゼ逆転写酵素TERTの2重欠損マウスを作製し、表現型を解析した。Wrn欠損マウスとTert欠損マウスを交配してWrn/Tert 2重欠損マウスを作製した。さらに同世代間で交配して第4世代 (TertG4/G4)まで作製し表現型を解析した。Wrn-/-, TertG4/G4マウスは正常に生まれ、体重の差もなく正常に発育した。さらにWrn遺伝子の有無に関わらずTertG4/G4マウスはテロメア長も有意に短縮し、テロメラーゼ活性低下の確証を得た。皮膚の組織学的解析によりWrn+/+, TertG4/G4マウスとWrn-/-, TertG4/G4マウスともに皮膚萎縮を示したため、Wrn欠損の影響は全く認められなかった。さらに、ウェルナー症候群で顕著な病態が現れる臓器や、その臓器のミトコンドリアDNAコピー数にWrn欠損による有意な変化は認められなかった。以上の結果から、WSの早老病態におけるテロメア長短縮の寄与は低い可能性が示唆された。WRN機能の詳細な解析にはWS病態を模する新たなモデルマウスの作出が必要である。
2: おおむね順調に進展している
WS病態メカニズム解明のため、テロメラーゼ(Tert)欠損マウスとWrn欠損マウスの2重欠損マウスを作出し、世代交配を重ね、WS症状を呈するかどうか形態学的・組織学的な解析を行った。Tert遺伝子の欠損世代を軸に、世代交配によりG0-G4世代の2重欠損マウスの作出に成功した。これらのマウスからゲノムDNAを抽出し、相対的テロメア長をPCR法で測定したところ、世代を経る毎にテロメア長の短縮が認められ、テロメラーゼ活性の消失による生殖細胞系列でのテロメア短縮を確認した。組織学的な解析を行った結果、Tert欠損の世代間で、またWrn欠損による目立った病理学的変化は認められなかった。しかし、精巣や皮膚厚において、Tert欠損の世代間とWrn欠損による増悪組織像が観察された。
哺乳類には、Wrnヘリケースが属するRecQヘリケースファミリーとして5種類の遺伝子(RecQL1, Wrn, Blm, Rts, RecQL5)が同定されている。単独のWrn欠損マウスが早老の表現型を示さず健常に生育すること、かつテロメラーゼ欠損マウスとの2重欠損マウスも顕著な早老症の表現型を示さないことを考えると、5種類RecQヘリケース遺伝子の機能的な重複を考慮する必要があると考えられる。Wrnタンパク質とRecQL5タンパク質の生理条件下での結合結果の報告から、現在、Wrn欠損マウスとRecQL5欠損マウスとの2重欠損マウスを作出中である。新しい早老症発症モデルマウスの作製を目指す。
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