本年度は研究計画の最終年度として、KPCマウス膵癌由来細胞株の抗癌剤耐性獲得機序と膵癌患者における腸内細菌叢プロファイルの変化について解析を実施した。 KPCマウス膵癌由来細胞株はゲムシタビン処理によっても40-50%程度の生存性を示し、すでに内因性の耐性を有していると考えられた。当教室で保有するNrf2欠損KPCマウスの膵癌から樹立した細胞株は通常培養が可能であるが、ゲムシタビン処理による細胞生存率はほぼ10%を下回ることが判明している。両者の比較によって、種々の解毒機構に関わる多数の遺伝子発現に変化がみられることが明らかになった。KPCマウス膵癌由来細胞株において主に耐性獲得に寄与する因子を確認すべく、GST枯渇剤であるBSO処理をゲムシタビン投与と併用したところ、明らかな抗腫瘍効果の増強は確認されなかった。この結果はNrf2によって誘導されるゲムシタビン耐性の少なくとも一部が、グルタチオンによるROSの減少とは独立したメカニズムによるものであることを示唆している。 膵癌患者の腸内細菌叢プロファイルに関しては、慢性膵炎患者・自己免疫性膵炎患者との比較検討を行った。その結果、特に慢性膵炎患者で菌叢プロファイルの変化が大きいことが判明した。膵癌患者と自己免疫性膵炎患者の比較では、膵癌患者でparabacteroides属の検出率が高いとの結果が得られている。 以上の知見に基づき、膵癌細胞の薬剤耐性獲得のメカニズム解明と膵癌進展に関わる腸内細菌叢の変化を含めた宿主側因子の解析を継続予定としている。
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