研究課題/領域番号 |
26293173
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
妹尾 浩 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90335266)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 癌 / 幹細胞 / 大腸 / 膵臓 / 胃 |
研究実績の概要 |
次世代の癌治療を担う重要なストラテジーのひとつである、「癌幹細胞を標的とする治療」実現のためには、正常組織幹細胞に発現しない「癌幹細胞特異的なマーカー」を見いだすことが重要である。研究代表者らは、doublecortin-like kinase 1(Dclk1)が腸管の癌幹細胞と正常組織幹細胞を明確に区別する「癌幹細胞特異的マーカー」であることを報告した。そこで本研究では、平成26年度に以下の項目について検討した。 (1)腸管における新規の癌幹細胞特異的因子の網羅的同定: Dclk1の他、Lgr5、Bmi1など種々の代表的な幹細胞マーカーGFPマウスとApcMinマウスとを交配し、Dclk1および他の幹細胞マーカーが高発現している腫瘍および正常組織幹細胞分画をFACSによって収集した。そのうえで、cDNAマイクロアレイ解析を行い、Dclk1陽性癌幹細胞特異的な因子を絞り込んだ。 (2)胃、膵臓、胆嚢など多臓器での癌幹細胞特異的因子の検証:胃癌(K19-Wnt1/C2mEマウス)、膵癌(Ptf1a-Cre; KrasG12Dマウス)、胆嚢癌(BK5.ErbB2トランスジェニックマウス)など各種消化器癌のモデルマウスと、Dclk1-CreERT2ノックインマウスとを交配し、リニエージ・トレーシングによってDclk1が癌幹細胞マーカーであるかを検証した。その結果、Dclk1は膵においても腫瘍特異的幹細胞マーカーであることが示された。また、DClk1は胃においても腫瘍幹細胞の一部をマークすることが示された。 (3)消化器癌を横断する癌幹細胞標的治療の開発:Dclk1陽性癌幹細胞に特異的に発現するキナーゼ類を2種類同定し、癌スフェロイド3次元培養系を用いて、siRNAや阻害剤による阻害実験を行った。その結果、それらの阻害によって、癌スフェロイドの成長が阻害されることを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度には、当初計画していた実験の各項目を以下の様に検討した。 (1)腸管における新規の癌幹細胞特異的因子の網羅的同定: Dclk1、Lgr5、Bmi1など種々の代表的な幹細胞マーカーを用いて、代表的な腸腫瘍モデルであるApcMinマウスにおける、Dclk1および他の幹細胞マーカーが高発現している腫瘍および正常組織幹細胞分画をFACSによって収集できた。そのうえで、cDNAマイクロアレイ解析によって、Dclk1陽性癌幹細胞特異的な因子を絞り込むことが出来た。また、下記(3)に記載のごとく、その生理的意義を検討することも出来た。 (2)胃、膵臓、胆嚢など多臓器での癌幹細胞特異的因子の検証:胃癌(K19-Wnt1/C2mEマウス)、膵癌(Ptf1a-Cre; KrasG12Dマウス)、胆嚢癌(BK5.ErbB2トランスジェニックマウス)など各種消化器癌のモデルマウスと、Dclk1-CreERT2ノックインマウスとを交配し、リニエージ・トレーシングによってDclk1が癌幹細胞マーカーであるかを検証することが出来た。その結果、Dclk1が膵および胃において腫瘍幹細胞の一部をマークすることが示されたため、Dclk1のより普遍的な意義を示すことが出来た。 (3)消化器癌を横断する癌幹細胞標的治療の開発:Dclk1陽性癌幹細胞に特異的に発現するキナーゼや酵素類について、癌スフェロイド3次元培養系を用いて、siRNAや阻害剤による阻害実験を行った。その結果、Dclk1陽性細胞に特異的に発現するキナーゼ類を2種類同定し、それらの阻害によって、癌スフェロイドの成長が阻害されることを見いだすことができた。 これらの実験結果は、当初の計画の多くを充足するものと思われ、本研究計画は、おおむね順調な達成状況を示すものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に得られた結果を基にして、平成27年度には、以下の研究を計画する。 (1)腸管における新規の癌幹細胞特異的因子の網羅的同定:癌はTCA回路以外に、グルタミノリシスや低酸素環境に適応できる特異な代謝系を持つ。さらに幹細胞にも特有の代謝系が想定され、それらが癌幹細胞の治療抵抗性を含めた特異な性質に寄与している。平成27年度は、腸管においてDclk1および他の幹細胞マーカーを用いて癌幹細胞分画をFACSによって収集し、メタボローム解析も試みる。Dclk1陽性癌幹細胞のメタボロームをそれ以外と比較し、薬剤耐性や抗酸化ストレスなど、癌幹細胞特有の代謝機構に迫る。 (2)胃、膵臓など多臓器での癌幹細胞特異的因子の検証:平成26年度に作製した各臓器の癌モデルマウスとiDTRマウスとの交配を進める。さらに、平成26年度に同定した腸管における癌幹細胞特異的な因子が、胃、膵臓など様々な消化器癌モデルマウスでどのような局在を示すかを検討する。 (3)消化器癌を横断する癌幹細胞標的治療の開発:平成26年度に引き続き、癌幹細胞に特異的に発現するキナーゼや酵素類の意義を確認する。さらに有効性が示されたsiRNAについては、核酸医薬開発の可能性を探る。有効性が示されたキナーゼや酵素類などの候補因子については、活性を阻害する小分子化合物のスクリーニングを開始する。また、本研究を進める過程で得られた新たな癌幹細胞特異的な膜表面蛋白のうち、特異性と発現量の高いものについては、引き続きその意義を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度においては、実験計画に準じて、おおむね順調に研究は進んだ。しかしながら、オミックス解析費用に関しては、平成26年度には、より廉価なDNA、RNA解析を中心として検討を進めた。したがって、プロテオーム解析、エピジェネティックな解析については、平成26年度には検体の蓄積を中心とし、平成27年度以降に大きく纏めた解析を予定することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
プロテオーム解析、エピジェネティックな解析については、平成26年度には検体の蓄積を中心とし、平成27年度以降に大きく纏めた解析を予定する。また、これらの検討に必要な遺伝子改変マウスを交配し、飼育するための費用が平成27年度以降にはより高額に必要となることが想定される。研究の順調な進展を図るためには、次年度使用額をあらかじめ計上することは妥当と思われる。
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