研究課題/領域番号 |
26293179
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
日野 啓輔 川崎医科大学, 医学部, 教授 (80228741)
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研究分担者 |
原 裕一 川崎医科大学, 医学部, 講師 (60550952)
仁科 惣治 川崎医科大学, 医学部, 講師 (70550961)
岸 文雄 川崎医科大学, 医学部, 教授 (40153077)
池田 正徳 鹿児島大学, 医歯(薬)学総合研究科, 教授 (30315767)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / マイトファジー / リン酸化シグナル / 活性酸素種 / C型肝炎ウイルス |
研究実績の概要 |
HCVはミトコンドリアの品質管理であるマイトファジーを抑制することで、酸化ストレスを増幅かつ持続させることを明らかにしてきた(Am J Pathol 2014)。活性酸素種(ROS)に起因する酸化ストレスの分子機構は、不対電子をもつフリーラジカルによる細胞内高分子の傷害とH2O2に代表され表される非ラジカルoxidantによる細胞内シグナルの障害やレドックス制御機構の破綻に大別される。しかし、非ラジカルoxidantによる細胞内シグナルの障害やレドックス制御機構の破綻がどのように肝発癌と関連しているかは殆ど明らかにされていない。そこで今年度はHCV-JFH1株感染細胞ならびにヒト肝細胞キメラマウスを用いて、Type 2(脱分極誘導型)マイトファジー抑制下での細胞内蛋白質のリン酸化状態を、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)を利用したiTRAQリン酸化部位同定・相対的定量解析を行った。ROS産生が亢進しているHCV感染細胞では488種類の蛋白に質量変化を認め、そのうち80.3%がリン酸化による質量増加であった。リン酸化を受けたアミノ酸の97%がserine、3%がthreonineであり、ストレス応答性kinaseであるserine/threonine kinaseの活性亢進が示唆された。一方、キメラマウスの肝組織ではROS産生の亢進を伴わず86種類の蛋白に質量変化を認め、リン酸化による変化が46.5%、脱リン酸化による変化が53.5%であった。以上の結果から、HCVによるマイトファジーの抑制は酸化ストレスを亢進させ、ROSの産生亢進がストレス応答性kinaseを活性化させ、細胞内のリン酸化シグナルを亢進させるのではないかと推測された。しかし、in vitroとin vivoでの細胞内のリン酸化シグナル活性化には差が認められ、更なる検討が必要と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
HCV感染細胞における酸化ストレス状態での細胞内リン酸化蛋白の網羅的解析までは行ったが、リン酸化が亢進した蛋白質の同定ならびにその蛋白が介在するシグナルの解析が遅れている。細胞内リン酸化蛋白の網羅的解析が平成26年度の終盤に終了したことが一番の原因と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ROS産生亢進に伴う細胞内リン酸化シグナルの代表的経路について、リン酸化が亢進した蛋白質の同定を行う。HCVによる直接的リン酸化シグナルの亢進ではないことを明らかにするために、HCV感染細胞に抗酸化剤を添加した状態で同様に細胞内タンパク質のリン酸化が亢進しているか否かを検討する。また、酸化ストレス応答性リン酸化シグナルの活性変化がkinase活性亢進に基づくものか否かを明らかにするために、変化の確認されたシグナルに対応するkinase阻害剤を用いて、シグナル活性の可逆性を確認する。 多くの抗酸化酵素や抗酸化タンパク質の発現誘導は、これらの遺伝子上流に存在するantioxidant response element (ARE)に転写因子であるNrf2が結合して行われる。非ストレス下ではKeap1(E3 ubiquitin ligaseのアダプターとして作用)はNrf2をプロテアソーム系による分解に導くが、Keap1の酸化ストレスセンサーはCys273とCys288であることが報告されている(Mol Cell Biol 2008)。HCV誘導の酸化ストレス下においてHCVタンパクがNrf2-Keap1経路による抗酸化機能に与える影響はこれまで検討されていない。そこで、HCV感染細胞を用いて、Nrf2の核への局在の有無を検討する。さらにNrf2のDNA結合能についてはElecrophoreic mobility shift assay法で検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた平成26年度の実験遂行がやや遅れたため、物品費の支出が予定額より少なくなり、このため次年度の実験(研究)に経費を持ち越すこととなった。
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次年度使用額の使用計画 |
持ち越しとなった助成金は、平成26年度の計画のなかで行えなかった実験(とくにリン酸化が亢進した細胞内シグナルとリン酸化蛋白の同定)費用に充てる予定であり、平成27年度研究費は当初の研究計画に準じて平成27年度研究経過の実験に使用する予定である。
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