多能性幹細胞を用いた心臓病治療の研究は、ヒト由来細胞を動物モデルに移植する異種移植モデルにおける検討であったが、有効性と安全性の正確な評価には同種移植による検討が必要である。カニクイザルiPS由来心筋細胞をMHC型の一致したカニクイザル心筋梗塞モデルに移植し、細胞の生着と免疫応答、腫瘍形成について組織学的に評価し、心機能の改善について心エコー、心臓CTを用いて検討する。さらに、移植した心筋細胞とホストの心筋細胞の電気的統合について、研究代表者らが開発した蛍光CaセンサーGCaMPによるイメージングシステムによって確認した。 移植12週間後の病理組織検査では、移植心筋細胞は免疫拒絶されずに生着していた。GCaMP蛍光イメージングで観察すると、グラフト心筋は収縮期に蛍光発色し、この発色周期は心電図周期と一致していた。心エコーおよび心臓CT検査では移植4週後および12週間後において心筋細胞移植群で心機能の改善が認められた。 Holter心電図による不整脈評価から、移植後1週間から4週間にかけて、心筋細胞移植動物において有意に心室性頻拍の発生頻度が増加していた。しかし、心室性頻拍発症中であっても、各個体において特に異常行動は見られなかった。また移植4週目以降は心室性頻拍の有意な増加は見られなかった。 MHC型を一致させた同種間移植によって、iPS細胞由来心筋細胞が免疫拒絶反応なく生着することが確認できた。さらに、生着した心筋細胞はホスト心臓と電気的に結合し、一体となって収縮することにより心機能を改善させることが確認できた。しかし、心筋細胞移植後の心室性頻拍の有意な増加がみられた。この不整脈は一過性で、個体の血行動態には大きな影響を与えていないことが示唆されるものの、今後移植後不整脈に関するメカニズムの解明と予防方法の確立が必要である。
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