研究課題
アドレノメデュリン(AM)は、血管をはじめ、全身の組織で広く産生される因子である。AMと生活習慣病などの関連も報告されており、その応用展開なども期待される。しかしAMは血中半減期も短いため、慢性疾患への応用には制約もある。我々は、AMに代わる治療標的としてAM受容体活性調節タンパクRAMPに注目した。これまでの検討から、我々はAMの機能は主としてRAMP2によって制御されている可能性を考え、RAMP2ノックアウトマウス(RAMP2-/-)を樹立した。RAMP2-/-では、AM-/-の表現型が再現され、胎生中期に致死であり、血管の発達異常と著明な浮腫や出血が認められた。一方、RAMP2ヘテロノックアウトマウス(RAMP2+/-)は、外観上の異常を認めず、成体が得られた。RAMP2+/-では、高脂肪食負荷時、体重増加、血中インスリン値の上昇、耐糖能の悪化を認め、脂肪組織における炎症性サイトカインの発現亢進とアディポネクチンの発現低下を認めた。さらにRAMP2+/-マウスでは、血管のカフ傷害モデルにおいて、新生内膜の形成、炎症細胞浸潤が亢進しており、動脈硬化病変の増悪が認められた。続いて我々は、血管特異的RAMP2ノックアウトマウス(E-RAMP2-/-)を樹立した。E-RAMP2-/-は、RAMP2-/-と比較して発生段階が進むものの、その殆どは出生直前に致死であった。一方で、約1割のE-RAMP2-/-は、正常に生まれ、成体が得られた。E-RAMP2-/-では、主要な臓器における血管周囲の慢性炎症、線維化などの自然発症が認められた。以上の結果は、AMの血管、代謝制御作用の双方が、RAMP2によって規定されていることを示すものであり、RAMP2は新たな治療標的分子として期待される。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた血管特異的RAMP2ノックアウトマウス作出に成功し、これを用いることで、RAMP2と血管の病態との関連についての研究が予定通り実施された。またRAMP2ヘテロノックアウトマウスを用いることで、脂肪組織のRAMP2と代謝制御の関連も明らかになりつつある。
初年度の研究成果を踏まえて、2年度は、血管の恒常性破綻と、病的血管新生、癌転移前土壌と臓器間連関について検討を進める。がんの新たな治療法の開発のためには、がん細胞の増殖、浸潤、遠隔臓器への転移という一連の時系列の事象を、腫瘍細胞と正常細胞、原発の臓器と転移先臓器、それを媒介する血管やリンパ管、転移先臓器の転移前土壌などに着目し、細胞、臓器間の相互関係を、時系列の中で理解する必要がある。これまでの検討では、RAMP2欠損により、腫瘍血管新生が抑制され腫瘍サイズは減少するが、転移は逆に亢進するという結果が得られている。この一見相反した結果は、同一のシステムであっても、病態のステージや部位によって、病態的意義が異なることを示唆している。そこで誘導型血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス(I-E-RAMP2-/-)を用いて、遺伝子欠損誘導後より、原発巣、血管やリンパ管、転移先臓器に起こる変化を経時的に観察し、がん細胞の転移促進に関わる要因を明らかとする。特に、転移前土壌となりうる血管の構造変化や炎症、腫瘍転移を促進させる因子などを検討することで、がん転移抑制のための新しい治療戦略の足掛かりとする。
当初計画で見込んでいたよりも試薬などの物品費が安価で研究が遂行できたため。
生じた次年度使用額は、平成27年度予算と合算して、物品費として使用予定である。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (30件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
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