研究課題
アドレノメデュリン(AM)は、血管をはじめ、全身の組織で広く産生される生理活性ペプチドであり、その臨床応用も期待されている。AMの受容体はGタンパク共役型受容体CLRであるが、CLRの受容体活性は、受容体活性調節タンパクRAMPが結合することで制御されている。RAMPには3つのサブアイソフォームが知られているが、我々はAMノックアウトマウス(AM-/-)が胎生致死となる発生段階の血管において、特にRAMP2の発現が亢進していることに着目し、RAMP2-/-を樹立した。これまでの検討から、RAMP2-/-では、AM-/-の表現型が再現され、胎生中期に致死であり、血管の発達異常と著明な浮腫や出血が認められることを報告した。このことから我々は、AMに代わる治療標的としてRAMP2に注目した。AM-/-、RAMP2-/-ともに胎生致死となってしまうために、これまで成体における解析は困難であった。そこで我々は、成体において任意の時期にRAMP2遺伝子を欠損できる、誘導型の血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス (DI-E-RAMP2-/-)を樹立した。本年度の研究では、DI-E-RAMP2-/-を用いて、腫瘍細胞の移植実験を行い、AMがもつ血管新生作用が、病態の進展にどのような意義を有するか検討した。成体マウスにおいて、RAMP2遺伝子欠損誘導後、マウス肉腫細胞(S180)とメラノーマ細胞(B16F10)の皮下移植を行い、腫瘍増殖をコントロール群と比較した。その結果、S180皮下移植において、DIE-RAMP2-/-マウスでは、腫瘍重量は有意に減少しており、腫瘍内の血管密度も減少していた。またB16F10皮下移植実験では、DIE-RAMP2-/-マウスにおいて、血管新生減弱と腫瘍組織の自壊が認められた。さらにマトリジェルを用いた血管新生アッセイでは、DI-E-RAMP2-/-では、新生血管先端部のtip cellの形成不全が確認された。以上から、AM-RAMP2系は、腫瘍血管新生を介して、腫瘍増殖に寄与することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた誘導型血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス(DI-E-RAMP2-/-)作出に成功し、これを用いることで、RAMP2と病的血管新生との関連についての研究が予定通り実施された。またその他のRAMPサブアイソフォームのノックアウトマウス作出と解析も予定通り進行しており、今後RAMP各サブアイソフォームの機能分化と生体内恒常性維持のメカニズムについて詳細な解析を進める準備が整っている。
アドレノメデュリン(AM)は血管拡張作用をはじめ、血管新生作用、抗酸化ストレス作用、抗炎症作用など多彩な生理活性を有する生理活性ペプチドであり、特に脈管系において強い発現を認める。我々はAMの機能の多様性を制御するメカニズムを解明するため、AMの受容体システムに着目した検討を進めている。AMおよびそのファミリーペプチドの受容体であるCLRには、受容体活性調節タンパク、RAMPが結合する。RAMPにはサブアイソフォームが存在するが、サブアイソフォーム間の機能分化や病態生理学的意義はこれまで不明であった。今後の研究では、各RAMPサブアイソフォームについて、胎生期から全身で遺伝子欠損させたマウス、あるいは成体において各組織特異的に遺伝子欠損を誘導できるマウスを樹立し、発生の異常や、成体での遺伝子欠損誘導後の変化を検討し、各サブアイソフォーム間の機能分化を中心に検討する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (34件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
細胞工学
巻: 35 ページ: 2-7
J. Atheroscler. Thromb.
巻: 22 ページ: 647-653
10.5551/jat.29967.
Hypertension.
巻: 67 ページ: 99-106
0.1161/HYPERTENSIONAHA.115.06054.
Endocrinology.
巻: 157 ページ: 358-367
10.1210/en.2015-1344.
Sci Rep.
巻: 6 ページ: 20011
10.1038/srep20011.
http://www7a.biglobe.ne.jp/~shindo/