研究課題/領域番号 |
26293184
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
室原 豊明 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90299503)
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研究分担者 |
新谷 理 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20309777)
柴田 玲 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70343689)
近藤 和久 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90644659)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 再生医療 / 血管再生 / 虚血性心疾患 / 末梢動脈閉塞症 / 皮下脂肪由来間葉系前駆細胞 / 細胞シート工学 |
研究実績の概要 |
自己脂肪組織由来間葉系前駆細胞(ADRC) を用いた血管再生に関する研究は、現在当科において基礎および臨床研究が同時進行している。末梢動脈閉塞症モデルにおける血管再生療法の基礎研究に関しては、以前のマウスモデル(Kondo et al. ATVB. 2009)に引き続き、平成26年度はウサギ下肢虚血モデルにおいても一定の成果が得られた(Hao et al. Am J Physiol. 2014)。すなわち、ウサギの片側下肢虚血モデルにおいて、生理食塩水コントロール群、ADRC移植群、自己骨髄単核球細胞(BM-MNC)移植群の3群でその効果を比較したところ、ADRCとBM-MNC群では有意な血管新生と皮下血流の増強、毛細血管密度の増強が見られ、しかもその効果はADRC群と BM-MNC群では差は無かった。また、それぞれの培養細胞におけるサイトカイン測定による検討では、ADRCの培養上清中で、FGF, VEGF, HGFなどの濃度が BM-MNC の培養上清に比べ、有意に増加していた。このことは、細胞から出て来る血管新生性サイトカインによる血管新生能では、ADRCの方が優れていることを示唆している。また、将来の重症末期虚血性心疾患への応用と細胞移植の治療効率改善のため、細胞シート作成に関する研究を行っている。我々は以前、磁性ナノ粒子をリポソームにて細胞内投与することにより、外部磁力で短時間のうちに10層以上からなる三次元細胞シートを構築する方法の樹立に成功した(Ishii et al. ATVB. 2011)。この細胞シート技術を用いてADRCシートを作製し、その細胞シート特性につき基礎的検討を行った。この細胞シートをマウス虚血部位に移植したところ、より効率的、効果的に血管新生作用が増強した(Ishii et al. Int. J. Cardiol. 2014)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基礎研究では、2014年度(平成26年度)も、上記のようにウサギの下肢虚血モデルを新たに作成し、ADRCの血管再生効果を検討し、BM-MNCとほぼ遜色ない程度に血管再生を誘導出来ることを確認し、これを海外一流雑誌に報告することが出来た。また細胞シート研究に関しても、上記のように磁性ナノ粒子とリポゾームを用いた細胞シート技術を用いてADRCシートを作製し、その細胞シート特性につき基礎的検討を行った。この細胞シートをマウス虚血部位に移植したところ、より効率的、効果的に血管新生作用が増強した。この成果をやはり2014年度に海外の一流雑誌に公表することが出来た。 また臨床研究では、現在までに本血管新生療法を3症例に施行し6ヶ月の追跡調査を行った。3症例ともに自覚症状(疼痛や歩行可能距離)の改善および他覚所見の改善傾向(潰瘍縮小など)が認められた。現在までに本治療に関係した有害事象の発生はなく、本臨床試験継続の妥当性は担保されたものと考える。しかしながら、「骨髄単核球細胞移植による血管新生療法」で認められた糖尿病や腎不全患者・透析患者などの治療不応群のような症例には、まだ本血管新生療法を施行できておらず、今後の検討が必要である。最終的な治療効果判定については、現状で登録症例数が少ないため評価困難であり、更なる症例の積み重ねが最重要課題であると考えている。 以上より、「本研究はおおむね順調に進展している」と自己分析している。
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今後の研究の推進方策 |
細胞移植による血管再生療法は、これまで我々が中心になって進めて来た先駆的医療である。すでに、自己骨髄単核球細胞や自己皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞移植による血管再生療法は臨床応用されているが、特に自己皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞移植による血管再生療法は、症例数も未だ少なく、効果についてはさらなる基礎的・臨床的検討が必須である。特に「骨髄単核球細胞移植による血管新生療法」で認められた糖尿病や腎不全患者・透析患者などの治療不応群のような症例には、まだ本血管新生療法を施行できておらず、今後の検討が必要である。最終的な治療効果判定については、現状で登録症例数が少ないため評価困難であり、更なる症例の積み重ねが最重要課題であると考えている。 一方で、基礎的な検討を加えてこの治療法による血管再生の詳細な機序、長期的な副作用、既存の薬剤との作用増強効果、細胞シートの安定した作成、大動物モデルを用いた虚血性心疾患に対する効果とその機序探索など、基礎面で行うべきことも多々ある。以上のような展望で、今後も引き続き自己皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞移植の効果と機序を調べる研究と、特に大型の細胞シートを用いた検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品等の納品日が、次年度にずれ込んだため。 本研究は次年度も継続して行うため。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続き物品費として、動物実験用の動物、研究試薬(抗体、生化学的試薬、微量蛋白アッセイキット等)、細胞培養試薬などに使用する予定である。
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