研究課題
本研究では、心血管疾患におけるアディポリンの役割を個体レベル、細胞レベルで明らかにするため、現時点で以下のような実験の結果を得ている。1.常法によりアディポリン欠損マウスを作成し、生理的条件における心血管系や代謝系に関する表現型を検討した。12週令のアディポリン欠損マウスは対照マウスと比べ、体重、収縮期血圧、心拍数、心筋組織重量、肺組織重量、脂肪組織重量、骨格筋重量、空腹時血糖などに有意な差を認めなかった。2.アディポリン欠損マウスと対照マウスに対して心筋虚血再灌流モデルを作成するとアディポリン欠損マウスは対照マウスと比べて心筋虚血再灌流後の心筋梗塞サイズが有意に増大していた。また、心筋虚血再灌流により脂肪組織でのアディポリンの発現は低下していた。以上より、アディポリンは虚血心筋に保護的に作用すると考えられた。3.アディポリンの炎症反応に対する作用を培養心筋細胞を用いて検討したところ、リコンビナントアディポリン蛋白を心筋細胞に前処理するとLPS添加による炎症性サイトカイン(TNF, IL-6, IL-1など)の発現増加を濃度依存的に有意に抑制していた。また、同様に、培養マクロファージにおいてもアディポリン添加蛋白によりLPS刺激による炎症性サイトカインの発現増加は濃度依存的に有意に抑制された。4.心血管疾患におけるアディポリンの臨床的意義については、ヒトアディポリンの血中濃度測定を継続中である。
2: おおむね順調に進展している
現時点では、アディポリン欠損マウスの作成に成功しており、生理的条件においては心血管系や代謝系に関する表現型を認めないことが明らかとなった。そして、心筋虚血再灌流モデルにおいては、内因性アディポリンは急性心筋障害に対して防御的に作用するという結果が得られている。また、アディポリンは心筋細胞の炎症反応を抑制するという結果が得られている。さらに、血中アディポリンの測定を継続している。従って、アディポリンの心血管疾患における役割は細胞レベルと個体レベルで明らかになりつつある。これらの達成度は当初の研究計画の予定を考えると順調であると考えられる。
心血管疾患に対するアディポリンの意義を明らかにするため、前年度までの研究成果を踏まえて、以下の解析を行う。1.前年度までに、アディポリン欠損マウスは対照マウスに比して心筋虚血障害が悪化していることが明らかとなった。今後は、遺伝子欠損系と遺伝子過剰発現系を用いて心筋虚血モデルの作成を継続し、マウスレベルでのアディポリンによる心筋保護作用の作用機序とそのシグナル伝達機構を解明する。2.前年度までに、アディポリンは培養心筋細胞とマクロファージに対して炎症抑制作用を有することを明らかにした。今後は、培養系を用いて、アディポリンのシグナル伝達機序と機能を解明する。3.血中アディポリンの測定を継続し、心血管疾患における、血中アディポリンの臨床的意義をさらに検討する。
アディポリンの新たな機能として多彩な抗炎症作用が見つかり、再現性の実験に加えてより詳細なメカニズム解析のさらなる実験の必要性がうまれ、これらの解析と実験が平成27年度にずれ込んだため次年度使用額が生じた。
ELISA試薬、免疫組織学用試薬やPCR用試薬を購入予定。
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