研究課題/領域番号 |
26293185
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大内 乗有 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座教授 (00595514)
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研究分担者 |
大橋 浩二 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座助教 (10595515)
柴田 玲 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座准教授 (70343689)
室原 豊明 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90299503)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 分子心臓病態学 / 虚血性心疾患 |
研究実績の概要 |
本研究では、虚血性心疾患をはじめとする心血管疾患におけるアディポリンの役割を個体レベル、細胞レベルで解明するため、現時点で以下のような実験の結果を得ている。 1.アディポリン欠損マウスの作成に成功し、アディポリン欠損マウスは対照マウスと比べ、生理的条件における心血管系や代謝系に関する明らかな表現型を認めなかった。 2.アディポリン欠損マウスは対照マウスと比べて心筋虚血再灌流後の心筋梗塞サイズが有意に増大しており、心エコーで評価した心収縮能も有意に増悪していた。また、アディポリン欠損マウスは対照マウスと比べて虚血心筋における炎症性サイトカインやケモカインの発現が有意に増加していた。従って、アディポリンは虚血心筋に保護的に作用すると考えられた。 3. 培養心筋細胞を用いてアディポリンの炎症反応に対する作用を検討した。生理的濃度のリコンビナントアディポリン蛋白を心筋細胞に前処理するとLPS添加による炎症性サイトカインの発現増加は濃度依存的に抑制された。また、培養マクロファージにおいてもアディポリン添加によりLPS刺激による炎症性サイトカインの発現増加が抑制された。内皮細胞においてはアディポリン添加によりアポトーシスが抑制された。以上より、細胞レベルにおいてもアディポリンは心血管系細胞に保護的に作用すると考えられた。 4.培養心筋細胞とマクロファージにおいてアディポリン添加後のリン酸化シグナルを網羅的に解析したところ、主にAktシグナルとサイクリックAMPシグナルが活性化されていた。 5.心血管疾患の病態におけるアディポリンの臨床的意義については、健常者と冠動脈疾患患者におけるヒトアディポリンの血中濃度測定を継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点では、心筋虚血再灌流モデルにおいては、内因性アディポリンは心筋虚血障害に対して防御的に作用することが明らかとなった。アディポリンは心血管系細胞の炎症反応やアポトーシスを抑制することにより、心筋保護的に作用すると考えられた。また、アディポリンにより活性化されるリン酸化シグナルが明らかとなった。さらに、健常者と冠動脈疾患患者での血中アディポリンの測定は継続中である。従って、アディポリンの虚血性心疾患における役割は細胞レベルと個体レベルで明らかになりつつある。これらの達成度は当初の研究計画の予定を考えると順調であると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
心血管疾患に対するアディポリンの意義を明らかにするため、前年度までの研究成果を踏まえて、以下の解析を行う。 前年度までに、アディポリンは抗炎症作用と抗アポトーシス作用を有し、心筋虚血障害に保護的に作用することが明らかとなった。また、培養細胞においてアディポリンのリン酸化シグナルが明らかとなった。今後は、遺伝子欠損系と遺伝子過剰発現系を用いて心筋虚血モデルの作成を継続し、マウスレベルでのアディポリンによる心筋保護作用の作用機序とそのリン酸化シグナルを解明するとともに細胞レベルでの詳細なシグナル伝達機序を明らかにする。さらに、血中アディポリンの測定を継続し、健常者において血中アディポリン濃度と様々な指標との相関関係を解析することによりアディポリンの生理的意義を明らかにするとともに、冠動脈疾患におけるアディポリンの病態生理意義をさらに検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
アディポリンの多面的な心血管保護作用(抗炎症効果、抗アポトーシス効果など)に加えて新たなリン酸化シグナル機序が見つかったため、再現性の実験の必要性とよりきめ細かい解析が必要となった。これらの検討のための実験が平成28年度にずれ込んだため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
抗体、PCR試薬やsiRNA試薬を購入予定。
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