Insulin/IGFシグナルは細胞増殖・糖代謝などを制御するシグナル伝達系であり、我々はこれまで心筋Insulinシグナルが心臓の生理的心肥大に関与することを明らかにしてきた。また、心筋特異的にInsulin受容体(IR)もしくはIGF受容体(IGFR)を個別にノックアウトしたマウスでは心機能が保持されているにもかかわらず、両者をノックアウトすると著明な心機能低下をきたすことを見出した。この結果はInsulinシグナルとIGFシグナルが協調的に心機能を調節していることを示唆するものと考えられる。そこで本研究では、Insulin/IGFの協調作用を介した心機能調節機構を明らかにすることを目的とした。
昨年度までの研究により、IR/IGFR DKOマウスは生直後から著明な心拡大と心機能低下をきたし、早期に死亡することが明らかになった。IR/IGFR DKOマウスの早期死亡により解析対象が若年マウスに限られてしまうため、Cre/loxPシステムを用いて成体でIR/IGFRを誘導的にノックアウトすることを試みた。生後12週齢の誘導型IR/IGFR DKOマウスにタモキシフェンを投与すると、投与1週間後には著明な心拡大・左室収縮能低下をきたし、組織学的には心筋の脱落・置換性線維化とマクロファージの浸潤がみられた。また、以上の結果は生直後だけでなく成体の心臓においてもInsulin/IGFシグナルは相補的かつ協調的に心機能を維持していることを示す結果と考えられた。
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