研究課題
COPDの病態における肺構築細胞の役割を解明するために、本研究では、以下の二つの観点から研究を遂行している。本研究を遂行するにあたり、現在までの、研究実績について以下に示す。1) 肺構築細胞に着目した気腫化の形成機序の解明気腫化の形成には、肺構築細胞の老化や機能不全が関与すると考えられている。現在は、肺線維芽細胞の老化についての検討を行っている。我々は、COPD由来の肺線維芽細胞では、気腫化の機序として、細胞老化が進行していることを老化関連蛋白質(p16, p53)の発現を免疫組織学的に検討することで明らかにした。さらに、COPD患者の気道で産生が増加している酸化型コレステロールの27-hydroxycholesterol(27-OHC)の細胞老化に対する役割について検討を行った。COPD患者気道で検出される濃度の27-OHCをヒト肺線維芽細胞に投与すると、老化関連蛋白質の発現増強、老化関連酵素の蓄積、細胞増殖速度の低下を招来し、細胞老化に至ることを明らかにした。これらの細胞では組織修復能が著明に減弱した。27-OHCに対する老化感受性は、健常人よりもCOPDの肺線維芽細胞で鋭敏であり、27-OHCは、COPDの肺構築細胞を老化させることで、COPDの病態に関連することが明らかになった。2) 肺構築細胞に着目した末梢気道線維性狭窄の形成機序の解明本研究における検討で、COPD患者から分離培養した気道線維芽細胞は強い線維化能を有することが明らかになった。この線維化能は、Kruppel-like factor 5 (KLF5)によって制御されていることが明らかになった。COPDの末梢気道周囲では、KLF5が極めて強く発現しており、COPDの末梢気道の線維化と関連している可能性が示唆された。同時にKLF5は、筋線維芽細胞への形質転換および蛋白分解酵素の発現を調節していた。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目標は、肺構築細胞の機能面から見たCOPDの病態形成の解明であり、COPDの重要な病理学的変化である肺実質の気腫化と末梢気道の線維性狭窄の機序を明らかにすることである。気腫化に関しては、正常な肺構造を維持するために重要な構築細胞である肺線維芽細胞がCOPD患者では、細胞老化による組織修復機能不全に陥っており、その原因として、27-OHCが関与している可能性を明らかにした。本研究内容は、すでに英文誌へ投稿中である。また、末梢気道の線維性狭窄に関しては、線維化を制御する転写因子KLF5が過剰発現し、末梢気道の組織改変に重要な役割を担っていることを明らかにした。末梢気道病変に関しては、現在まで、病因が明らかになっておらず、本研究内容は、KLF5を抑制することで、末梢気道病変の進行を抑制する可能性を示すものである。本研究内容も現在、英文誌に投稿準備中である。本年度の成果から、肺および気道線維芽細胞に着目したCOPDの病態の解明については、申請書に記載した成果が達成されたと考える。一方で、気道上皮細胞や血管内皮細胞といった他の肺構築細胞の役割については、現在、検討中である。現在は、気道上皮細胞における全く新規のレドックス関連分子である活性硫黄種の着目し、その役割を含めて検討を行っているところである。従来より、COPDの最も重要な病因の一つとして気道および肺の酸化ストレスが提唱されている。肺の抗酸化機構としては、SODやカタラーゼなどのスーパーオキサイド消去系やグルタチオンに代表されるヒドロキシラジカル消去系が知られているが、活性硫黄種は極めて強力な還元作用、細胞保護作用を有する分子であり、現在、独自のLC/MS/MS測定系を確立し、その産生様式を含めて検討中である。血管内皮細胞に関しては、新たな細胞傷害マーカーであるエクソソームに着目し、COPD患者血漿や、喀痰を用いて測定中である。
肺線維芽細胞の役割については一定の成果が得られており、研究成果を投稿中である。また肺線維芽細胞で得られた知見に関しては、学会や研究会での発表を通じて、公表していく予定である。また、研究に用いる肺構築細胞では、現在、気道上皮細胞を用いた検討を行っている。気道上皮細胞を用いた活性硫黄種の役割の検討についても、現在、順調に研究は進んでいる。一方で、活性硫黄種の測定では、LC/MS/MSの測定精度を向上させるために、Br-bimaneの代わる新たな付加体を検討中である。この測定系については、本学環境保健医学分野の赤池らと協力し、確立を目指す。また、気道上皮細胞の分離培養は、肺線維芽細胞の培養より技術的に困難である。今後は、より多くの肺組織や気道上皮細胞を含む肺構築細胞を得るために、グループの研究員(大学院生を含む)を2名増員し、精力的に検体採取に当たる予定である。
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことにより発生した未使用額であり、平成27年度請求額と併せ、今年度の研究遂行に使用するものである。
平成27年度は気道上皮細胞を用いた活性硫黄種の役割の検討について行っていく予定である。活性硫黄種の測定では、LC/MS/MSの測定精度を向上させるために、Br-bimaneの代わる新たな付加体を検討中であり、また、気道上皮細胞の分離培養は、肺線維芽細胞の培養より技術的に困難であるためより多くの肺組織や気道上皮細胞を含む肺構築細胞を得る必要もあり、多数の検体採取に当たるなどの研究を遂行するために使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (13件) (うち査読あり 6件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件) 図書 (1件)
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