研究課題/領域番号 |
26293201
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
成田 一衛 新潟大学, 医歯学系, 教授 (20272817)
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研究分担者 |
後藤 眞 新潟大学, 医歯学系, 准教授 (00463969)
山本 卓 新潟大学, 医歯学総合病院, 講師 (70444156)
金子 佳賢 新潟大学, 医歯学系, 講師 (80444157)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | IgA腎症 / ゲノム解析 / 家族性IgA腎症 / エクソーム解析 / メタゲノム解析 / プロテオミクス解析 |
研究実績の概要 |
IgA腎症の原因抗原は不明で、その遺伝的体質との関連は未解明である。治療は副腎皮質ステロイドや扁桃摘出術が行われているが、十分な効果は得られておらす、いまだに末期腎不全の主要な原因疾患である。本研究は、IgA腎症患者から摘出された口蓋扁桃のメタゲノム、腎生検標本のマイクロプロテオミクス解析の両者から抗原を同定し、さらにホストゲノムのエクソーム解析の結果も合わせて、本症の口蓋扁桃粘膜免疫の機能的な異常を解析し、その原因を明らかにすることを目的とする。“ホロゲノム”とは、ホストゲノムだけでなく、生体内に存在する全ての環境微生物ゲノム、さらにはエピゲノム解析も同時に行い、それらを包括的に評価する方法で、近年の解析技術の進歩により初めて可能となったものである。本研究はこれを、IgA腎症の発症・進展機序解明に応用する。IgA腎症では半数以上の症例で血清IgA値が上昇し、IgAの産生・代謝に異常がある。ヒンジ部O-結合型糖鎖修飾の異常を持つ糖鎖不全IgA1分子は、自己凝集、代謝遅延、メサンギウム細胞・基質への高親和性などの性質があり、本症の原因に直結していると考えられる。この糖鎖不全IgAは、口蓋扁桃を含む粘膜リンパ組織で産生されていると考えられる。 私共は現在まで、孤発例のゲノムワイド解析に加えて、家族性IgA腎症家系のエクソーム解析を行った。家系内に腎生検で確定診断された患者を複数含む家族性IgA腎症家系を50家系以上収集し、複数の疾患感受性候補遺伝子を同定した。現在それらの機能解析を進めている。一方、IgA腎症患者の摘出扁桃におけるメタゲノム解析、腎生検標本からのプロテーム解析も同時進行で進めており、疾患パスウェイ解析を行った。また、同定された非ヒト由来ペプチドについてデータベースサーチにより腎臓局所での細菌菌体抗原の有無について解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
孤発例IgA腎症のゲノムワイド関連解析については既に成果を挙げている(Kiryluk, K. et al. Nat Genet, 2014他)。同定された複数のリスク遺伝子は本症の発症・進行の病態を理解するうえで、重要な示唆を与えた。さらにそれぞれの機能解析を進めている。IgA腎症患者扁桃のメタゲノム解析では、治療として摘出された口蓋扁桃陰窩の細菌叢を網羅的に解析した。既に100例以上の摘出扁桃を保存し、解析を行った。対照として習慣性扁桃炎と小児扁桃肥大を解析した。IgA腎症患者に特異的な細菌群が同定されれば、予防と治療に繋がると考える。現在のところ、16SrRNAシークエンスによるOUTレベル(属レベル)では、小児扁桃肥大とは明瞭に異なるものの、習慣性扁桃炎と明確な差がないことを、世界で初めて報告した(Watanabe H, et al. Nephrol Dial Transpl2016)。家族性IgA腎症のエクソーム解析も実施した。世界最大規模の家系数(50家系以上)を全国から収集し、新たな候補遺伝子を同定した。それらの機能解析を進めている。また、IgA腎症患者の腎生検標本を用いて、糸球体のみをマイクロダイセクション法により単離し、プロテオーム解析を行っている。正常腎とは明確に異なるペプチド蛋白を同定し、疾患パスウェイ解析を行った。その機能解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
孤発性IgA腎症のゲノムワイド関連解析、家族性IgA腎症のエクソーム解析で同定された疾患感受性候補遺伝子の機能解析、とくに組織局所における発現動態を解析する。またIgA腎症患者からの摘出扁桃のメタゲノム解析を進める。口腔内常在菌のうち、特に今までの16S rRNA解析で存在率が高いと考えられた歯周病菌に焦点を当てて、全ゲノムシークエンスを行う。細菌属に差はないが、さらに種レベルや特定の機能遺伝子レベルでの特異性が検出される可能性がある。一方、IgA腎症などの腎生検病理標本を用いたマイクロプロテオミクスを行う。ヒト腎生検標本からレーザーマイクロダイセクションにより、糸球体のみを単離し、蛋白質、ペプチドを溶出し、質量分析計を用いて網羅的に蛋白,ペプチドを解析する。すでにこの手法での解析が可能であることは確認した。正常腎との比較により、補体や炎症関連分子、細胞外基質などIgA腎症に特に発現が上昇する分子群を同定した。疾患プロセスがより明確になる。また、同定された非ヒト由来ペプチドについて、データベースサーチにより腎臓局所での細菌菌体抗原の有無について解析を行う。この結果と、摘出扁桃のメタゲノム解析のデータを比較することにより、病因に直結する細菌抗原が同定される可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究に必要な試薬、物品等の購入、旅費を支出したが、端数751円のみ残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に残額が生じないよう、計画的に支出する。研究のまとめ等に必要な文房具等を購入する予定。
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