研究課題/領域番号 |
26293203
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
飯島 一誠 神戸大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00240854)
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研究分担者 |
野津 寛大 神戸大学, 医学部附属病院, 講師 (70362796)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アルポート症候群 / 分子治療 / アンチセンスオリゴヌクレオチド / エクソンスキッピング |
研究実績の概要 |
X染色体連鎖性アルポート症候群(XLAS)はIV型コラーゲンα5鎖をコードするCOL4A5遺伝子の変異で発症し、男性患者の大半は40歳までに末期腎不全に進行する予後不良な遺伝性腎疾患である。5000人に1人という比較的高頻度で発症するが、現在のところ有効な治療法はない。我々はこれまで200家系を超えるXLASの遺伝子型―表現型解析を行った結果、ナンセンス変異やフレームシフト変異などの“Truncating変異”では、“非Truncating変異”に比して腎不全への進行が早いことを明らかにした。本研究は、リードスルーやエクソンスキッピングなどを誘導し、予後不良な“Truncating変異”を比較的予後良好な“非Truncating変異”に修復することを目指すものであり、世界で初めて、XLASの分子治療法を確立することを目的とする。 本年度は、患者由来尿中落下細胞の培養系を確立、培養細胞の特性を明らかにし、その細胞やマウスポドサイト、市販のヒト近位尿細管細胞やヒト線維芽細胞などを用いて、IV型コラーゲンalpha5鎖蛋白(alpha5(IV))に対する種々の抗体の染色性を検討し、今後の研究に最適な抗体を同定した。また、種々のENAアンチセンスオリゴヌクレオチド(ENA-ASO)のエクソンスキッピング誘導活性を検討し、最も活性の高いENA-ASNを同定した。我々は、この研究の過程で、患者尿中落下細胞中に腎幹細胞が存在することを確認し、現在、尿中腎幹細胞からポドサイトへの分化誘導を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
患者由来尿中落下細胞に関しては、2-3代までの継代が限界であるが、その細胞はLTA陽性で近位尿細管の特徴を有していた。この近位尿細管と考えられる患者由来尿中落下細胞やマウスポドサイト、さらには市販のヒト近位尿細管細胞及びヒト線維芽細胞等を用いて、IV型コラーゲンalpha5鎖蛋白(alpha5(IV))に対する種々の抗体の染色性を検討したところ、重井医学研究所の佐渡博士から提供を受けたモノクローナル抗体のみがすべての細胞に対して染色陽性を示し、今後の実験系にはこの抗体を用いることとした。エクソンスキッピングは、ナンセンス変異、フレームシフト変異の両者をインフレーム変異に変えうることから、まず、エクソンスキッピングに集中して研究を進めることとしたが、アンチセンスオリゴヌクレオチドとして2'-O,4'-C-ethylene-bridged nucleic acid (ENA) アンチセンスオリゴヌクレオチド(ENA-ASO)を用いることとした。その理由としては、エチレン炭素couple構造のためにヌクレアーゼに対する抵抗性が高く、低用量で効果があり持続性も高いことがあげられる。比較的変異症例の多いエクソンを対象として、種々のENA-ASNのエクソンスキッピング誘導活性を検討し、最も活性の高いENA-ASOを同定した。なお、我々は、この研究の過程で、患者尿中落下細胞中に腎幹細胞が存在することを確認し、現在、尿中腎幹細胞からポドサイトへの分化誘導を試みているが、この方法が確立できれば、iPS細胞を樹立することなく比較的容易に患者由来ポドサイト培養系を確立することが可能となり、研究の進展に大きく寄与すると考えている。以上より、おおむね当初の計画どおりに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
1)XLAS患者の遺伝子情報の蓄積:神戸大学小児科ではこれまで240例のアルポート症候群患者で遺伝子診断を行ってきた。今後、引き続き情報を集積し、今後の分子生物学的治療の候補となる患者情報の集積を行う。 2)マウスにおいて、ENA-ASOが糸球体podocyteに取り込まれることの確認:正常マウスおよびAlportモデルマウスにおいて蛍光ラベルで標識したENA-ASOを投与し、腎臓摘出後凍結切片を作成し、nephrinまたはpodocin、WT1等と二重染色する。それによりENA-ASOが糸球体ポドサイトに取り込まれることを確認する。 3)患者由来糸球体podocyteおよび尿細管上皮細胞の培養、患者由来iPS細胞からの3次元腎組織誘導及びENA-ASOを用いたエクソンスキッピング療法によるalpha5(IV)の発現解析:患者の尿より落下細胞 (糸球体podocyte及び尿細管上皮細胞) を収集し培養を行う。また、患者由来iPS細胞からの3次元腎組織を誘導する。それらに対し、ENA-ASOを投与し、エクソンスキッピングおよびalpha5(IV)蛋白の発現を認めるかにつき検討を行う。対象は先に示した表で3の倍数の塩基数を有するエクソンにナンセンス変異またはフレームシフト変異を有する患者である。 4)In vivoでの治療効果の判定:Truncating変異を有する動物モデルを作成し、上記の治療法の効果を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初iPS細胞から3次元尿細管組織を構築することを考えていたが、最近iPS細胞から糸球体や尿細管を含む3次元腎組織を分化誘導する方法が報告され、現在、その方法を確認中であり、患者由来iPS細胞からの分化誘導に関しては平成27年度以降に行うこととしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
健常人及びXLAS患者の末梢血T細胞からiPS細胞を誘導し、最近、西中村らが開発した分化誘導法(Cell Stem Cell 2014, 14:53)を用いて、3次元腎組織に分化誘導する。
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