研究課題
X染色体連鎖性アルポート症候群(XLAS)はIV型コラーゲンα5鎖をコードするCOL4A5遺伝子の変異で発症し、男性患者の大半は40歳までに末期腎不全に進行する予後不良な遺伝性腎疾患である。5000人に1人という比較的高頻度で発症するが、現在のところ有効な治療法はない。我々はこれまで200家系を超えるXLASの遺伝子型―表現型解析を行った結果、ナンセンス変異やフレームシフト変異などの“Truncating変異”では、“非Truncating変異”に比して腎不全への進行が早いことを明らかにした。本研究は、リードスルーやエクソンスキッピングなどを誘導し、予後不良な“Truncating変異”を比較的予後良好な“非Truncating変異”に修復することを目指すものであり、世界で初めて、XLASの分子治療法を確立することを目的とする。今年度は、日本人XLASで比較的多く変異の認められるエクソンを検討し、複数のエクソンをターゲットとして、種々のENAアンチセンスオリゴヌクレオチド(ENA-ASO)のエクソンスキッピング誘導活性を検討し、最も活性の高いENA-ASNを同定した。また、正常マウスにおいて、ENA ASOが尿細管とポドサイトに取り込まれることを確認した。現在、対象患者と同じ変異を持つアルポート症候群モデルマウスを作成中であり、その表現型を確認した後にENA-ASOによる治療実験(POC実験)を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
我々が現在まで収集したXLAS患者のデータベースをより詳細に解析し、比較的変異症例の多いエクソンを抽出するとともに、そのエクソンを対象として、種々のENA-ASNのエクソンスキッピング誘導活性を検討し、最も活性の高いENA-ASOを同定した。また、将来の臨床応用のためには、ENA-ASOが腎構成細胞、特にIV型コラーゲンα5鎖を発現・産生すると考えられるポドサイト及び尿細管上皮細胞に取り込まれるin vivoで確認する必要があるが、正常マウスにENA-ASOを投与したところ、期待したとおりに、ポドサイト及び尿細管上皮細胞に取り込まれることを確認した。対象患者と同じ変異を持つアルポート症候群モデルマウスを作成し、現在、尿所見や腎組織などの表現型を検討しているとこrとであり、その表現型を確認し次第、ENA-ASOを用いた治療実験(POC実験)を実施する予定である。以上より、おおむね当初の計画どおりに進展している。
1. XLAS患者の遺伝子情報の蓄積:神戸大学小児科ではこれまで375家系のアルポート症候群患者で遺伝子診断を行ってきた。今後、引き続き情報を集積し、今後の分子生物学的治療の候補となる患者情報の集積を行う。なお、次世代シークエンサーによるパネル解析を用いた方が、より効率よくAlport症候群の診断が可能となることが明らかになり、導入を完了した。2. 患者と同じtrancating変異を有するAlportモデルマウスにおいて、ENA-ASOがエクソンスキッピングを起こし治療効果が得られることの確認: AlportモデルマウスにENA-ASOを投与し、尿所見や腎機能の改善効果を確認するための治療実験を実施する。3. 患者由来iPS細胞からの3次元腎組織誘導及びENA-ASOを用いたエクソンスキッピング療法によるalpha5(IV)の発現解析:患者由来iPS細胞からの3次元腎組織を誘導する。それらに対し、ENA-ASOを投与し、エクソンスキッピングおよびα5(IV)蛋白の発現を認めるかにつき検討を行う。対象は先に示した表で3の倍数の塩基数を有するエクソンにナンセンス変異またはフレームシフト変異を有する患者である。
患者尿中落下細胞を用いたin vitroでのエクソンスキッピング等の分子治療法の検証についてはほぼ完了したが、培養ポドサイトでの検証の際に、iPS細胞からポドサイトへの分化誘導が当初の想定通りに進まず、その分化誘導法等を見直すことに時間を要しため、次年度使用額が生じた。
理化学研究所多細胞システム形成研究センターの高里実博士らの指導を受け、患者iPS細胞から3次元腎組織に分化誘導させ、その3次元組織を用いて、エクソンスキッピング等の分子治療法の検証を行う予定である。
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