研究課題
運動ニューロン疾患は根本治療法のない進行性かつ致命的神経変性疾患である。本研究では運動ニューロン疾患の病態を単なるニューロン変性としてではなく、神経・筋システム変性として捉え、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や球脊髄性筋萎縮(SBMA)の複数のモデルマウス・患者iPS由来神経・筋共培養系・患者剖検組織・バイオマーカーなどのマテリアルを用い、神経・筋システム変性に寄与する分子変化を同定し、運動ニューロン・骨格筋クロストークの異常を標的とした治療法を開発することを目的として実施している。本年度はとくにSBMAにおける分子シグナル異常について解析を行なった。Bio-Plexマルチプレックスシステムを用いてSBMAマウスモデルの脊髄・骨格筋におけるシグナル変化を解析した結果、計17個の分子におけるリン酸化を測定した。SBMAマウスモデルの脊髄において、野生型マウスと比較して発症前(6週齢)から有意にリン酸化が変化(全て上昇)していた分子を7種(Src・Stat3・p38MAPK・c-Jun・IGF-1R・Akt・IkBa)同定した。そのうちSrcは発症後期まで一貫して有意差をもち上昇をみとめた。骨格筋では野生型マウスと比較して4分子(Stat3・IRS-1・Akt・p70s6k)の発現が有意に上昇していた。これらの分子の中で、脊髄において発症前から発症後期までリン酸化が上昇していたSrcはコントロールと比較してSOD1マウスの脊髄と骨格筋両方で1.2倍以上上昇しており、SBMAモデルマウスとの類似をみとめた。また、SBMAの神経系(NSC34)および骨格筋(C2C12)細胞モデルにSrc阻害剤を投与したところ、細胞のviabilityが改善し、細胞死が抑制されたことから、Srcの異常活性化がSBMAの病態に寄与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
運動ニューロン疾患におけるシグナル異常に関する解析が進んでおり、治療法開発のターゲットとなりうる分子を複数同定することができた。そのうちの一部はALSとSBMAとに共通する分子異常であり、両疾患における共通の病態経路が明らかとなりつつある。
Bio-Plexマルチプレックスシステムにより同定された分子について、今後さらに細胞レベルおよびマウス個体レベルでの解析を進め、病態に関するシグナルであることの検証を行なうとともに、シグナルを是正する化合物を探索し、治療標的分子としての妥当性を検証していく予定である。
1月以降に使用した実験動物施設使用料の支払いが平成28年度になる。
本年度より翌年度にかけて予定している実験動物関連への支払いに充当する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 謝辞記載あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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