研究課題/領域番号 |
26293209
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
池田 昭夫 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90212761)
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研究分担者 |
松本 理器 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00378754)
岡田 知久 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30321607)
井内 盛遠 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (30532600)
人見 健文 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50402904)
國枝 武治 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (60609931)
小林 勝哉 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70737121)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脳神経疾患 / 臨床神経生理学 / てんかん / グリア / 大脳皮質 |
研究実績の概要 |
1) 侵襲的計測による広域周波数脳波解析からのDC電位、高周波律動(HFO)の記録解析:硬膜下電極の慢性留置を行なった難治部分てんかん患者において、標本化周波数1000あるいは2000 Hz、時定数10秒で皮質脳波を記録し、広域周波数脳波解析を継続した。てんかん発作時の解析から、DC電位とHFOが、てんかん焦点の中核領域に出現し、DC電位がHFOにしばしば先行すること、この傾向が内側側頭葉てんかんと比較して、新皮質てんかんで顕著であることを明らかにした(Daifu et al., 2016)。てんかん発作間欠期について、同様にDC電位様の緩電位及びHFOの解析を開始した。脳内電極からの解析結果から、発作間欠期においても緩電位が観察され、特にHFOと密接に関連を示すものについては、発作時脳波変化(発作時DC電位、HFOを含む)と同様の分布を示し、てんかん焦点において発作時のみならず、発作間欠期にもグリアとニューロンの病的相互作用が存在する可能性を示した(大封ら, 2015)。 2) 非侵襲的計測による発作時DC電位の記録解析:てんかんの診断、難治部分てんかんの術前評価目的で、頭皮上長時間ビデオ脳波モニタリングを施行した患者を対象に発作時脳波を時定数10秒で記録し、発作時DC電位の解析を開始した。低周波数の雑音の混入が少なかった症例において、てんかん発作時の脳波変化が十分に進展した場合、頭皮記録でもDC電位が再現性をもって記録されることを示した。特異度は高いが出現率は脳内電極より低く感度の向上の方策が必要である(村井ら, 2015)。 3) ミクロ電極からの記録:マルチユニット記録に加えて、局所フィールド電位を低周波数から高周波数帯域にわたって記録することが可能なミクロ記録用の脳波計測システムのハード・ソフト面における準備が完了し、皮質脳波におけるDC電位及びHFOと、それぞれに対応する神経細胞群レベルの活動との対比が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グリアと神経細胞の活動をそれぞれ反映するとされるDC電位、HFOが、発作時にてんかん焦点の中核領域に発現し、DC電位が先行すること、内側側頭葉てんかんと比較して新皮質てんかんで先行する傾向が強いことを明らかにした。発作間欠期においてもDC電位とHFOは密接に関連しながら、てんかん焦点に一致して認められ、発作間欠期の徐波がてんかん原性の指標となりうることを示せた。非侵襲的にDC電位が計測されうることを示した。 ミクロ記録のハード・ソフト面での準備が完了した。 組織所見と電気生理学的所見の対応についての準備が概ね完了した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、以下に重点をおいて研究を継続し、成果をまとめる。 1)てんかん性徐波(red slow)の特徴抽出:てんかん発作時には、DC電位がてんかん焦点の中核領域に出現し、HFOに先行することが多い。昨年度開始した発作間欠期の解析によってDC電位あるいは緩電位は発作間欠期においても観察され、特にHFOと密接な関係を示すものは、てんかん焦点の中核領域に発現しうることを示した。さらに緩電位とHFOの多くは同時に出現するが前者が先行することが圧倒的に多く、またHFOが単独で出現することは稀である。以上より、従来の緩電位(徐波)からてんかん性徐波(red slow)を原理的に区別できる可能性が極めて高い。多数例において発作間欠期のred slowの特徴抽出を目的として、広域周波数脳波解析を継続する。その結果を昨年度に解析を完了した発作時の広域周波数脳波解析結果と比較検討し、緩電位とHFOの出現様式の差異から両者が異なる発生基盤を有すことを示すとともに、発作間欠期からてんかん発作発現に至るメカニズムをグリア及びニューロンの視点から明らかにする。2)ミクロ電極でのDCあるいは緩電位:頭蓋内にマクロ電極とミクロ電極を留置して広域周波数脳波の記録を行い、両者の周波数応答を一致させて比較検討する。それにより従来のマクロ電極から記録された電位(発作時DCあるいは緩電位、および発作間欠期の緩電位(徐波))の細胞群レベルでの態様を明らかにすることを目指す。本年度は、正常ラットおよび常染色体優性外側側頭葉てんかんモデルラットのミクロ記録を開始し、次いで難治部分てんかん患者における記録に着手する。3)手術症例でのDC電位の発現と病理所見の相関を検討して電気生理所見と組織所見の関連を明らかにし、DC電位とHFOの病理学的な発生基盤を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の研究計画にある、ヒトてんかん患者におけるミクロ記録に加え、てんかんモデルラット及び正常ラットにおけるミクロ記録が遂行可能となったため、実際の記録解析に関わる諸費用を次年度の予算に計上する必要があった。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度に動物用の脳波計測アンプ、実験設備の確保など準備は完了している。実際の記録解析を継続するために、ミクロ記録解析用ソフトウェアの追加、電極、実験動物、組織標本処理に関わる費用を計上することとした。
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